古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑化け猫
FILE 57 / 動物変化・家

化け猫

ばけねこ

飼い猫が家人の姿と声を借りる夜

夜中、行灯の火が揺れる。飼い猫が後脚で立ち、皿の油を長い舌でなめている。やがて頭に手拭いをかぶり、人のように踊り始めた。長く飼われた猫は人の言葉を覚え、主人の姿へ化け、死者を操ると恐れられた。とりわけ三毛の雌や、尾の長い猫は化けやすいとされ、尾を短く切る習慣まで生まれた。

古い町家の行灯へ前脚を掛け、油をなめる大きな三毛猫を家人が戸口から見る場面
古い町家の行灯へ前脚を掛け、油をなめる大きな三毛猫を家人が戸口から見る場面

行灯の油をなめる猫

江戸時代の行灯には、菜種油のほか魚から取った安い油も使われた。猫が匂いに引かれ、後脚で立って皿をなめることがある。灯の下から見上げれば、壁に大きな影が揺れ、人のように立つ姿が映った。

猫が油をなめる家では、やがて言葉を話し、手拭いをかぶって踊ると噂された。夜の姿を見た飼い主が翌朝いなくなる話もある。尻尾が二つに分かれれば猫又と呼ばれるが、化け猫と猫又の境は土地や本によって一定しない。

手拭いを頭に巻いた猫が夜の台所で二本脚になって踊る場面
手拭いを頭に巻いた猫が夜の台所で二本脚になって踊る場面

語りの移り変わり

  1. 近世以前年老いた飼い猫が人へ化け、死者を操る話が各地で語られる。
  2. 江戸時代行灯の油をなめ、手拭いをかぶって踊る猫が絵や怪談に登場する。
  3. 1853年歌舞伎『花嵯峨猫魔稗史』が鍋島家の政争を化け猫物へ脚色する。
  4. 明治以降鍋島猫騒動や岡崎の猫が舞台、錦絵、映画で繰り返し描かれる。

主人を殺して成り代わる

化け猫の怪談では、飼い猫が老女や女主人を殺し、その姿へ化けて家に居座る。夜になると元の猫へ戻り、屋根の上で踊る。家人が不審に思って部屋を探すと、床下や庭から本物の主人の遺体が見つかる。

猫は死体を飛び越えると死者を起き上がらせるとも信じられ、葬儀の間は猫を遺体へ近づけない地域があった。身近で素早く、暗闇でも目が光る猫は、家の内側から秘密を知り、亡くなった人の姿まで盗む動物になった。

食事を運ぶ女中の着物の裾から猫の尾がのぞく廊下の場面
食事を運ぶ女中の着物の裾から猫の尾がのぞく廊下の場面

芝居になった鍋島猫騒動

佐賀藩鍋島家のお家騒動を下敷きに、江戸末期には化け猫が主君の側室へ成り代わる芝居が作られた。嘉永六年(一八五三)の歌舞伎『花嵯峨猫魔稗史』などを経て、「鍋島猫騒動」の名で人気を集める。史実の政争に妖猫を加えた創作であり、実際に鍋島家で化け猫事件が起きた記録ではない。

舞台では猫の目を光らせ、宙乗りや早替わりで女から獣へ変身する。「岡崎の猫」も化け猫演目の見せ場となり、浮世絵や映画へ受け継がれた。家庭の灯油をなめる小さな怪異は、芝居の中で城を揺るがす妖猫へ大きくなった。

囲炉裏端の老猫が口を開き、向かいの主人が箸を止める場面
囲炉裏端の老猫が口を開き、向かいの主人が箸を止める場面
障子に巨大な猫の影が映り、座敷では家人が灯を掲げる場面
障子に巨大な猫の影が映り、座敷では家人が灯を掲げる場面
夜の屋根で複数の猫が輪になり、中央の古猫を見上げる場面
夜の屋根で複数の猫が輪になり、中央の古猫を見上げる場面
SOURCES

主な参考資料