人も景色も化かす
狸は夜になると僧や女へ化け、知人の声で旅人を呼ぶ。道のない方へ案内し、家に着いたと思わせて酒や料理を出す。朝になると座敷は野原、膳は木の葉、酒は泥水に戻る。人だけでなく、周囲の景色を丸ごと別の場所に見せる。
腹鼓を打つ狸、巨大な陰嚢を広げる狸も絵や歌に登場した。狐の変化が美女や婚姻の話へ向かうのに対し、狸は失敗したり、仕掛けを見破られたりする。身近な里山の動物だったため、恐ろしさと笑いが同じ話に入った。

語りの移り変わり
- 近世以前狸が人や景色へ化ける話が全国の里山で語られる。
- 江戸時代団三郎、太三郎、芝右衛門など名のある大狸の伝説が広がる。
- 近世から近代大狸が神社や寺で土地の守りとしてまつられる。
- 1894年巌谷小波が『日本昔噺』で分福茶釜を児童向けに再話する。
佐渡と屋島の狸の親分
佐渡の団三郎狸は、何百匹もの狸を従える総大将とされる。洞穴を立派な屋敷に見せ、木の葉を金に変えて買い物をした。人を化かす一方、困った者へ金を貸し、借用書どおりに返せば助ける。現在は二ツ岩大明神としてまつられている。
香川県屋島の太三郎狸は、屋島寺を守り、四国の狸を率いたという。蓑山大明神として、縁結びや家庭円満の信仰を集める。化ける力の強い狸は退治されるだけでなく、土地を守る神の座へ移った。

茶釜になった狸
群馬県館林市の茂林寺には、いくら湯を汲んでも尽きない茶釜「分福茶釜」の寺伝がある。守鶴という僧が長く寺に住み、茶釜をもたらしたが、ある時その正体が狸のようなものだと知られ、寺を去ったとされる。
明治二十七年(一八九四)、巌谷小波がお伽噺に書き直し、古道具屋が茶釜に化けた狸を見世物へ出す筋が広まった。綱渡りをして恩人へ富を返す半狸半釜の姿は、この近代の童話による。寺伝と童話は内容が違うが、どちらも人と暮らした狸が福を残して去る。






