川辺で同じ言葉を返す女
石川や富山では、夜の川辺に若い女や小さな子が現れる。道行く者が「誰だ」と尋ねると、「誰だ」と答える。「どこへ行く」と聞けば、同じ言葉を返す。会話にならないまま顔を隠し、相手がいら立って近づくのを待つ。
顔をのぞこうとすると、口を大きく開けて笑い、たちまち獣へ戻って水中へ逃げる。姿を変えず、声だけをまねる場合もある。暗い川から自分の名を呼ばれ、返事をすると水へ引かれるという話もあった。

語りの移り変わり
- 近世以前北陸や四国の水辺で、かわうそが人へ化ける話が語られる。
- 江戸時代妖怪画集に、着物を着て立つかわうその姿が描かれる。
- 1979年高知県でニホンカワウソの最後の確実な目撃が記録される。
- 2012年環境省がニホンカワウソを絶滅種に指定する。
人のように立つ水辺の獣
ニホンカワウソは川魚や蟹を食べ、川岸の穴や岩場で暮らした。夜に活動し、後脚で立てば小さな人影に見える。前脚で物を扱い、仲間との間でさまざまな声を出す。水中へ潜れば、さっきまでいた場所から一瞬で消える。
能登地方では河童に近いものと考えられ、小豆島では神としてまつる例もあった。人を食う大妖怪というより、漁の獲物を奪い、声をまねし、道を迷わせる身近な化け物だった。

姿を消した後も残る話
ニホンカワウソは明治以降、毛皮目的の捕獲と河川環境の変化で急速に減った。最後の確実な目撃は一九七九年の高知県とされ、環境省は二〇一二年に絶滅種へ指定した。夜の川で本物のかわうそに出会う機会は失われた。
動物がいなくなった後も、人に化ける話は土地の伝説に残る。今治地方では、海岸や池、川の深い淵にいたかわうそが人を化かしたと記録されている。かつて普通にいた生き物の姿を、今では妖怪の話から想像することになる。






