古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑山童・山わろ
FILE 54 / 山・仕事

山童・山わろ

やまわろ

山へ移る河童と、力を貸す小さな住人

秋の彼岸、川から山へ向かう見えない一団の足音がする。道には小さな足跡が続き、山奥では甲高い声が響く。熊本などでは、夏に川で暮らした河童が秋になると山へ入り、山童へ姿を変えるといわれた。毛深く、一つ目で、人の子ほどの背丈。木こりの仕事を手伝うが、礼を間違えると怒り、積んだ材木を一晩で崩す。

杉林の倒木に赤い毛の小柄な山童が腰を掛け、木こりを見ている場面
杉林の倒木に赤い毛の小柄な山童が腰を掛け、木こりを見ている場面

秋には山、春には川へ

熊本では河童をガラッパと呼ぶ地域がある。ガラッパは秋の彼岸になると川を離れ、群れで山へ登る。その間は山童となって冬を越し、春の彼岸に再び川へ下りる。移動の日には、姿が見えなくても、山道を通る足音や「ヒョウヒョウ」という声が聞こえるという。

彼岸は農作業や季節が切り替わる時期でもある。水田や川の仕事が終わる秋に水の怪が山へ移り、春の田仕事が始まるころ戻る。河童と山童は別々の妖怪ではなく、同じものが季節で居場所と名を変えると考えられた。

山道で山童が自分より大きな薪束を軽々と背負って運ぶ場面
山道で山童が自分より大きな薪束を軽々と背負って運ぶ場面

語りの移り変わり

  1. 近世以前九州の山間で、河童が季節ごとに山と川を行き来する話が語られる。
  2. 1712年ごろ『和漢三才図会』が筑前・五島の山童を記す。
  3. 近代熊本県芦北・球磨・八代などで山童伝承が民俗調査に記録される。
  4. 現在河童の山の姿として九州を代表する妖怪の一つになる。

木こりを手伝う一つ目の子

山童は全身を毛に覆われ、猿に似て二本脚で歩く。背丈は子どもほどで、一つ目だとする話も多い。木を運ぶ、材木を積む、石を動かすなど、山仕事を人の何倍もの力で手伝う。

頼む時には、仕事が終わったら飯や酒を渡すと先に約束する。終わってから褒美を増やしても喜ばず、約束した品を決めた場所へ置かなければならない。礼を怠ると怒り、材木を崩し、次から仕事を邪魔する。山で交わした約束は、人同士のものと同じ重さを持った。

秋の夕方、川辺から山へ向かう小さな影の列を遠くから見る場面
秋の夕方、川辺から山へ向かう小さな影の列を遠くから見る場面

笑い声と相撲

山童は人の様子を見て笑い、木を倒す音をまねる。相撲を挑む話もあり、小さな体でも力は強い。山小屋の食べ物を盗むこともあれば、道に迷った人を里まで導くこともある。人を一方的に襲うというより、山仕事のすぐそばにいる気まぐれな隣人だった。

『和漢三才図会』は、筑前や五島に山童がいると記し、黒い毛を持つ十歳ほどの子どもの姿を紹介した。江戸の知識人は九州の伝承を珍しい動物の記事として読み、妖怪画は一つ目の毛深い姿を広めた。

作業小屋の前に握り飯と酒が置かれ、山童の足跡だけが土に残る場面
作業小屋の前に握り飯と酒が置かれ、山童の足跡だけが土に残る場面
犬が暗い林へ吠え、飼い主には木立しか見えない場面
犬が暗い林へ吠え、飼い主には木立しか見えない場面
田植え前の川岸で、水面から上がった影が山の方へ歩き出す場面
田植え前の川岸で、水面から上がった影が山の方へ歩き出す場面
SOURCES

主な参考資料