近づくと遠ざかる火
鬼火は青、白、赤などと語られ、地面から一、二メートルほどの高さを漂うという。初めは一つでも、途中で二つに分かれたり、幾つも連なったりする。熱を感じない話も、触れた物を焼く話もある。
夜道の人が提灯と思って追うと、道のない湿地や崖へ誘われる。反対に、迷った者を村の近くまで導く火もある。同じ名でも、人を害するかどうかは土地と話によって違った。

語りの移り変わり
- 古代~中世怪しい火を死者や神霊の現れとする記事が日本と中国の文献に記される。
- 江戸時代『和漢三才図会』や随筆が、鬼火・陰火など各種の怪火を分類する。
- 近代民俗調査が墓地、湿地、戦場などの地域別伝承を採集する。
- 現代自然科学上の複数の説明と、魂を表す火の図像が並んで残る。
死者、狐、戦場の記憶
墓地から出る火は死者の魂とされ、合戦場の火は命を落とした武者の執念とされた。狐が吐く狐火、怨みを残した女の火、死体から離れた魂など、土地の出来事に合わせて正体が語られた。
江戸時代の『和漢三才図会』は、陰火や鬼火を火の部に収め、古い中国の記述と日本の事例を並べる。妖怪画にも、顔のある炎や、亡者を包む火としてさまざまな姿が描かれた。

一つに決められない夜の光
湿地や墓地の有機物から生じたガスの発火、遠い漁火や松明の屈折、発光する生物などが、鬼火の説明として挙げられてきた。実際には、目撃された場所も天候も異なる。
夜に見える小さな光は距離を測りにくく、見る者が歩けば動いて見えることもある。自然現象、人工の火、見間違い、語り継がれた怪談が重なり、鬼火という一つの名のもとへ集まった。






