枝に並ぶ人の顔
人面樹の幹や葉は普通の木に見える。違うのは実で、一つ一つに人間の顔がある。絵では、丸い実から髪や耳まで生え、枝へぶら下がる。赤子の顔を思わせるものが多い。
実は言葉を話さないが、問いかけると笑う。何度も笑わせれば熟した果実のように落ちる。この奇妙な木が生える場所は、日本の山ではなく「大食国」という遠い国だとされた。

語りの移り変わり
- 中国古代~中世遠い国に人の顔をした実がなるという記事が類書や異国譚に伝わる。
- 1607年王圻らの『三才図会』が人面樹を図説する。
- 1712年頃寺島良安『和漢三才図会』が中国の資料を取り入れて日本へ紹介する。
- 1781年頃鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』が笑う実をつけた人面樹を描く。
中国の百科事典から日本へ
明の王圻らが編んだ『三才図会』は、一六〇七年に成立した図説百科事典で、天文、地理、人物、動植物などを絵付きで紹介した。実際に見た品だけでなく、古い文献に記された異国の珍しいものも収めている。
江戸中期の医師・寺島良安は、その構成にならって『和漢三才図会』を編んだ。人面樹も図と説明を伴って日本の読者へ届く。遠い土地の産物を集めた百科事典は、妖怪図鑑のようにも読めた。

石燕が描いた笑いの木
鳥山石燕は『今昔百鬼拾遺』に人面樹を描いた。枝には小さな顔が幾つも実り、口を開けて笑っている。詞書も『三才図会』系の説明を引く。
人面樹は日本各地で目撃された樹木ではない。石燕も異国の文献上の存在として扱った。後の創作では人を食う木、実に魂が宿る木などへ変えられたが、古い図説の中心は、話しかけるとただ笑う不思議な果実だった。






