古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑人面樹
FILE 99 / 異国・奇木

人面樹

じんめんじゅ

人の顔をした実が笑う遠国の木

はるか西南の大食国に、人の顔をした実がなる木があるという。実は枝から首を下げるように並び、目も鼻も口も赤子そっくりだ。人が話しかけると一斉に笑う。あまり笑わせると枝から落ちるが、落ちた実も人間ではない。中国の『三才図会』に載った異国の植物が、日本の『和漢三才図会』と鳥山石燕の妖怪画を通じて人面樹として知られた。

遠国の庭で、人の顔をした果実が枝いっぱいに実る人面樹の場面
遠国の庭で、人の顔をした果実が枝いっぱいに実る人面樹の場面

枝に並ぶ人の顔

人面樹の幹や葉は普通の木に見える。違うのは実で、一つ一つに人間の顔がある。絵では、丸い実から髪や耳まで生え、枝へぶら下がる。赤子の顔を思わせるものが多い。

実は言葉を話さないが、問いかけると笑う。何度も笑わせれば熟した果実のように落ちる。この奇妙な木が生える場所は、日本の山ではなく「大食国」という遠い国だとされた。

旅人が木へ声をかけ、枝の顔が口を開けて笑う場面
旅人が木へ声をかけ、枝の顔が口を開けて笑う場面

語りの移り変わり

  1. 中国古代~中世遠い国に人の顔をした実がなるという記事が類書や異国譚に伝わる。
  2. 1607年王圻らの『三才図会』が人面樹を図説する。
  3. 1712年頃寺島良安『和漢三才図会』が中国の資料を取り入れて日本へ紹介する。
  4. 1781年頃鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』が笑う実をつけた人面樹を描く。

中国の百科事典から日本へ

明の王圻らが編んだ『三才図会』は、一六〇七年に成立した図説百科事典で、天文、地理、人物、動植物などを絵付きで紹介した。実際に見た品だけでなく、古い文献に記された異国の珍しいものも収めている。

江戸中期の医師・寺島良安は、その構成にならって『和漢三才図会』を編んだ。人面樹も図と説明を伴って日本の読者へ届く。遠い土地の産物を集めた百科事典は、妖怪図鑑のようにも読めた。

笑い続けた一つの実が枝を離れ、草の上へ落ちる場面
笑い続けた一つの実が枝を離れ、草の上へ落ちる場面

石燕が描いた笑いの木

鳥山石燕は『今昔百鬼拾遺』に人面樹を描いた。枝には小さな顔が幾つも実り、口を開けて笑っている。詞書も『三才図会』系の説明を引く。

人面樹は日本各地で目撃された樹木ではない。石燕も異国の文献上の存在として扱った。後の創作では人を食う木、実に魂が宿る木などへ変えられたが、古い図説の中心は、話しかけるとただ笑う不思議な果実だった。

人面樹の下で旅人が声をかけ、枝いっぱいの顔の実が一斉に笑う
人面樹の下で旅人が声をかけ、枝いっぱいの顔の実が一斉に笑う
人面樹の一つの実が笑いすぎて、枝から茎が切れる瞬間
人面樹の一つの実が笑いすぎて、枝から茎が切れる瞬間
草の上へ落ちた一つの人面果と、枝でなお笑う多数の顔の実
草の上へ落ちた一つの人面果と、枝でなお笑う多数の顔の実
SOURCES

主な参考資料