塀の向こうを滑る赤い女
投稿者はバイクに乗ろうとして駐車場へ向かった。マンションとの境には高さ一・八メートルほどの塀があり、その先の道は少しずつ下っている。普通なら歩くにつれて頭が塀の陰へ沈むはずなのに、赤い女は同じ高さを保ったまま進んでいた。帽子の下には長い髪が垂れ、口元には薄い笑いが浮かんでいた。
女は投稿者を追いかけて走ったのではない。壁や屋根の向こうへ出たり消えたりしながら、いつの間にか距離を詰めてくる。スレッドに貼られた絵を見た参加者からは、福島県内で似た女を見たという書き込みが続いた。郡山周辺ではないかという話も出たが、場所を一か所に絞れる記録は残っていない。

語りの移り変わり
- 2008年9月22日2ちゃんねるのオカルト板に『ヤヴァイ奴に遭遇したかもしれん』が立ち、赤い長身女の目撃が書き込まれる。
- 2008年9月以降ログの転載と再現イラストによって、アクロバティックサラサラの名と外見が広まる。
- 2021年漫画『ダンダダン』の連載が始まり、同名をもとにした怪異が独自の物語で登場する。
一枚の絵から増えた目撃談
スレッドが立ったのは2008年9月22日21時28分。題名は『ヤヴァイ奴に遭遇したかもしれん』だった。最初の投稿には女を描いた画像が添えられていたが、元画像は後に失われ、現在広まっているものには閲覧者が描き直した絵も含まれる。
書き込みが進むと、赤い帽子と服、黒一色に見える目、大きな口、左腕の傷跡などが女の特徴として挙げられた。屋根の上から飛び降りた、壁の向こうへ体を折り曲げて消えた、腕をつかまれて事故に遭ったという別の話も加わる。最初の目撃者だけが続きを書いたのではなく、複数の参加者が同じ女を知っている形で話が伸びていった。

『アクサラ』という短い呼び名
長い名前は、女の動きから付いた。人間には難しい姿勢で壁や屋根を越え、体を投げ出すように移動するため『アクロバティックサラサラ』と呼ばれる。略して『アクサラ』とも書かれた。『サラサラ』を髪の様子と結びつける説明もあるが、初期ログの全員が同じ由来を示したわけではない。
八尺様と混同されることもある。どちらも背の高い女だが、八尺様は白い服と帽子、低い声、村境の地蔵を伴う長編から広まった。アクサラは赤い服を着て高所を移り、福島の複数の目撃者が一つのスレッドへ集まる形で輪郭を得ている。

母親を名乗る人の書き込み
後半では、赤い女を知るという母親の話が現れる。子どものころに女と出会い、長い間つきまとわれたという内容で、事故や家族の死を女へ結びつけるくだりもある。この書き込みが加わったことで、路上の短い目撃談は一つの家族を追い続ける怪談へ広がった。
ただし、スレッドの名前欄やIDだけで、書き手同士の現実の関係までは確かめられない。初めから役割を分けた創作だったのか、別々の参加者がその場で続きを作ったのかも判定できない。吉田悠軌は当時の流れを調べ、複数の投稿者によるグループ創作に近い印象が強いと記している。

漫画で知られた現在の姿
その後、赤い女は怪談集やイラスト投稿へ移り、長い手足を振り回して空中を跳ぶ姿が定着した。原ログでは見えにくかった全身や顔が描き手ごとに補われ、赤いワンピース、つばの広い帽子、歯の並んだ大口という組み合わせが広く使われるようになる。
龍幸伸の漫画『ダンダダン』には、アクロバティックさらさらをもとにした怪異が登場する。作品では少女と母親の関係に独自の過去が与えられており、2008年の掲示板とは別の筋である。現在よく見かける造形には、初期の投稿だけでなく、漫画やファンアートを経て整えられた部分がある。




