現代怪異資料館MODERN KAIKI ARCHIVE
奇怪千万現代怪異資料館南極のニンゲン
FILE 26 / ネット・海洋

南極のニンゲン

なんきょくのにんげん

氷海に浮かぶ巨大な白い人型

南極海を進む調査船の乗組員が、海面から白いものが上がるのを見た。初めは氷山か鯨だと思ったが、滑らかな体には人間の頭と手足のようなものがある。全長は二十メートルを超え、すぐに海中へ消えた――。2002年5月、2ちゃんねるへ書かれた匿名の伝聞から、南極のニンゲンは生まれた。

南極海の霧と氷山の間に巨大な白い人型が浮かぶ南極のニンゲン
南極海の霧と氷山の間に巨大な白い人型が浮かぶ南極のニンゲン

公表できない『人型物体』

書き手は『バイト君』と名乗り、調査捕鯨の関係者から聞いた話として投稿した。南極周辺の海では、捕獲対象ではない鯨も観察して記録する。その現場で数年前から、関係者が『人型物体』と呼ぶものが目撃されているという。

全身は白く、表面は滑らか。人のような頭と四肢を持つ姿のほか、上半身が二つ連なったような型もあると書かれた。大きさは数十メートルで、水中から現れて再び沈む。関係者は記録だけを取り、積極的には探していないという話だった。

南極海の氷下を巨大な白い影が通り、遠い調査船が海面に見える場面
南極海の氷下を巨大な白い影が通り、遠い調査船が海面に見える場面

語りの移り変わり

  1. 2002年5月11日『バイト君』を名乗る投稿者が、調査捕鯨関係者から聞いた人型物体の話を書き込む。
  2. 2000年代半ば個人サイトや怪奇雑誌で再録され、ニンゲンとヒトガタの外見や分類が増える。
  3. 2000年代後半以降画像と動画が海外へ転載され、Ningenの名で日本発のUMAとして知られる。

2002年5月11日の書き込み

現在の再録で初出として挙げられるのは、2002年5月11日の2ちゃんねる・オカルト板である。投稿者自身が船上で見たとは書いていない。知人の関係者から聞いたうえ、その人の名は出さないという二重の伝聞になっている。所属する船、航海の期間、緯度経度も示されなかった。

匿名であることに加え、『公表すると調査捕鯨の科学的な信用に関わる』という説明にも根拠は付いていない。初期投稿には、南極観測や捕鯨に携わった機関の報告書への参照がなく、同じ名の生物を裏づける公的資料も示されなかった。

南極海の調査船員たちが、流氷の脇から浮上する巨大で白い人型のニンゲンを直接目撃する
南極海の調査船員たちが、流氷の脇から浮上する巨大で白い人型のニンゲンを直接目撃する

ニンゲンとヒトガタ

再話が増えると、南極のものを『ニンゲン』、北極のものを『ヒトガタ』と呼び分ける説明が現れた。腕と脚のある巨人型、下半身が尾のように細い型、指の間に水かきがある型など、姿も一つではない。目や口をほとんど描かない白い顔は、後年のイラストで広く共有された。

最初の文章には、現在知られる細かな分類表はない。複数の形が目撃されたという短い記述をもとに、掲示板、個人サイト、雑誌がそれぞれ別の姿を描いた。北極の話も同じ時期に揃っていたとは限らず、転載された年代を分けて確かめる必要がある。

白いニンゲンが海面から長い腕を上げ、調査船と同じほど巨大な上半身を氷の間へ現す
白いニンゲンが海面から長い腕を上げ、調査船と同じほど巨大な上半身を氷の間へ現す

後から現れた写真と映像

話が広まった後、海面に白い輪郭が写った画像、氷の下へ巨体が沈む映像、衛星写真の白い影がニンゲンの証拠として紹介された。撮影者や日時が分からない画像も多く、鯨、氷山、波、雲の影を拡大したものが同じ名前でまとめられている。

遠い海面では大きさの基準がなく、白い物の輪郭も波で崩れる。画像が先に撮られ、後からニンゲンの名を付けられた例と、怪異を見せるために作られた図を区別しなければならない。2002年の投稿は文章だけで始まっており、後年の一枚を初出時の写真として置くことはできない。

無人潜水カメラの光の中を、滑らかな白い人型のニンゲンが流氷下で泳ぎ去る
無人潜水カメラの光の中を、滑らかな白い人型のニンゲンが流氷下で泳ぎ去る

日本の掲示板から海外のUMAへ

2000年代後半には、海外の掲示板や動画サイトでも『Ningen』の名が使われるようになった。日本語の『人間』をそのままローマ字にしたため、英語圏でも固有名のように読まれた。南極という行きにくい場所と、政府や調査船が隠しているという筋は翻訳後も残った。

一方で、目撃場所や船名を確認できる新たな航海記録は提示されていない。2002年の一投稿に、イラスト、加工画像、既存の極地映像が重なり、白い巨人の姿だけが国境を越えて定着した。

船員たちの目前でニンゲンが海中へ潜り、巨大な白い背と長い航跡だけを残す
船員たちの目前でニンゲンが海中へ潜り、巨大な白い背と長い航跡だけを残す
SOURCES

主な参考資料