見たはずの過去ログを探す
最初の書き手は、以前2ちゃんねるにあった『鮫島スレ』をもう一度読みたいと持ちかけた。事件がいつ、どこで起きたかは書かない。被害者の名も、何を見て衝撃を受けたのかも示さず、ログを持っていないかとだけ尋ねた。
参加者は質問へ答えず、触れないほうがいい、消されるぞ、関係者が死んだ、と制止した。初めて読む人には、古参だけが知る事件があり、掲示板の外から圧力がかかっているように見える。詳しい人を演じるには、内容を語らず怖がるだけでよかった。

語りの移り変わり
- 2001年5月24日ラウンジ板に『伝説の「鮫島スレ」について語ろう』が立つ。
- 2005年長編の事件概要が投稿され、『2典 第3版』にも掲示板用語として収録される。
- 2011年『2ちゃんねるの呪い 劇場版』が鮫島事件を映像化する。
- 2020年映画『真・鮫島事件』が公開される。
2001年5月24日のラウンジ板
保存されたURLでは、最初のスレッドは2001年5月24日に立てられた。数日後には二本目も作られている。同じ時期の2ちゃんねる上の事件を集めた年表には、それ以前の鮫島事件が載っていない。『削除されたから記録がない』という説明は後から加えられたものだ。
2005年刊の用語辞典『2典 第3版』も、このスレッドをきっかけにしたネタとして鮫島事件を収録した。実在事件の資料を引く項目ではなく、掲示板内で共有された言い回しと遊び方を説明する項目だった。

話すたびに変わる『真相』
ある書き込みでは集団リンチ、別の書き込みでは列車事故、さらに別の版では動画に映った殺人や警察の隠蔽が鮫島事件とされた。場所も九州、柏駅、無人島などへ移る。共通する被害者名や日付はなく、詳しく書くほど別の版と食い違った。
2005年には『鮫島事件について語らせて貰います』という長編が現れ、実在の駅名や学校名を交えた事件概要が作られた。これは2001年の参加者が隠していた内容を掘り出した記録ではない。初期スレッドで散らされた言葉を拾い、後から一続きにした文章である。

質問した人を輪へ引き込む
鮫島事件を知らない人が『何があったのか』と尋ねると、同じやり取りをもう一度始められる。古い利用者は真顔で警告し、別の人は話題をそらし、さらに別の人が関係者らしい一言を残す。質問者が検索しても、互いに矛盾する説明しか出てこない。
答えを見つけられないことまで、『情報が消された証拠』として使われた。事件の本文がないため、元の筋を覚える必要もない。参加者が守るのは、何かを知っているように振る舞い、決して核心を言わないという約束だけだった。

映画が初めて事件を映す
2011年の『2ちゃんねるの呪い 劇場版』は、鮫島事件を題材にして具体的な映像と登場人物を与えた。2020年公開の『真・鮫島事件』でも、オンラインで名前を口にした若者たちが怪異に襲われる筋が作られている。どちらも、空白だった事件の実録映像ではない。
2018年にNHKの番組公式アカウントが鮫島事件へ触れると、古い利用者は再び『地上波で扱うな』『消される』と反応した。2001年と同じ冗談を知る人がいる限り、質問と警告のやり取りは何度でも再演できる。




