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奇怪千万現代怪異資料館鮫島事件
FILE 27 / ネット・禁句

鮫島事件

さめじまじけん

内容がないこと自体を共有する事件名

『伝説の「鮫島スレ」について語ろう』。2001年5月24日、2ちゃんねるのラウンジ板にそんな題名のスレッドが立った。書き手は以前見た鮫島スレに衝撃を受け、保存した人はいないかと尋ねる。ところが返ってきたのは事件の説明ではなかった。『その話はやめろ』『死人が出た』『公安が見ている』。誰も中身を言わないまま、重大事件が隠されているような空気だけが出来上がった。

古いパソコン室の空席と抽象表示のCRT群を描いた鮫島事件
古いパソコン室の空席と抽象表示のCRT群を描いた鮫島事件

見たはずの過去ログを探す

最初の書き手は、以前2ちゃんねるにあった『鮫島スレ』をもう一度読みたいと持ちかけた。事件がいつ、どこで起きたかは書かない。被害者の名も、何を見て衝撃を受けたのかも示さず、ログを持っていないかとだけ尋ねた。

参加者は質問へ答えず、触れないほうがいい、消されるぞ、関係者が死んだ、と制止した。初めて読む人には、古参だけが知る事件があり、掲示板の外から圧力がかかっているように見える。詳しい人を演じるには、内容を語らず怖がるだけでよかった。

古いCRTモニター群の中央が黒い空白になり、無人の椅子だけが残る場面
古いCRTモニター群の中央が黒い空白になり、無人の椅子だけが残る場面

語りの移り変わり

  1. 2001年5月24日ラウンジ板に『伝説の「鮫島スレ」について語ろう』が立つ。
  2. 2005年長編の事件概要が投稿され、『2典 第3版』にも掲示板用語として収録される。
  3. 2011年『2ちゃんねるの呪い 劇場版』が鮫島事件を映像化する。
  4. 2020年映画『真・鮫島事件』が公開される。

2001年5月24日のラウンジ板

保存されたURLでは、最初のスレッドは2001年5月24日に立てられた。数日後には二本目も作られている。同じ時期の2ちゃんねる上の事件を集めた年表には、それ以前の鮫島事件が載っていない。『削除されたから記録がない』という説明は後から加えられたものだ。

2005年刊の用語辞典『2典 第3版』も、このスレッドをきっかけにしたネタとして鮫島事件を収録した。実在事件の資料を引く項目ではなく、掲示板内で共有された言い回しと遊び方を説明する項目だった。

初期ネットカフェで三人の成人が中央だけ黒く抜けた抽象画面を見る場面
内容を示さず制止する反応が、空白へ最悪の想像を誘う

話すたびに変わる『真相』

ある書き込みでは集団リンチ、別の書き込みでは列車事故、さらに別の版では動画に映った殺人や警察の隠蔽が鮫島事件とされた。場所も九州、柏駅、無人島などへ移る。共通する被害者名や日付はなく、詳しく書くほど別の版と食い違った。

2005年には『鮫島事件について語らせて貰います』という長編が現れ、実在の駅名や学校名を交えた事件概要が作られた。これは2001年の参加者が隠していた内容を掘り出した記録ではない。初期スレッドで散らされた言葉を拾い、後から一続きにした文章である。

CRT、ノート型端末、携帯端末の各画面に同じ黒い空白が現れる場面
媒体が変わっても、核心を語らない仕掛けだけが反復される

質問した人を輪へ引き込む

鮫島事件を知らない人が『何があったのか』と尋ねると、同じやり取りをもう一度始められる。古い利用者は真顔で警告し、別の人は話題をそらし、さらに別の人が関係者らしい一言を残す。質問者が検索しても、互いに矛盾する説明しか出てこない。

答えを見つけられないことまで、『情報が消された証拠』として使われた。事件の本文がないため、元の筋を覚える必要もない。参加者が守るのは、何かを知っているように振る舞い、決して核心を言わないという約束だけだった。

深夜の匿名掲示板で鮫島事件へ触れた投稿の後、返信欄が次々と消え、閲覧者たちの画面が黒くなる
深夜の匿名掲示板で鮫島事件へ触れた投稿の後、返信欄が次々と消え、閲覧者たちの画面が黒くなる

映画が初めて事件を映す

2011年の『2ちゃんねるの呪い 劇場版』は、鮫島事件を題材にして具体的な映像と登場人物を与えた。2020年公開の『真・鮫島事件』でも、オンラインで名前を口にした若者たちが怪異に襲われる筋が作られている。どちらも、空白だった事件の実録映像ではない。

2018年にNHKの番組公式アカウントが鮫島事件へ触れると、古い利用者は再び『地上波で扱うな』『消される』と反応した。2001年と同じ冗談を知る人がいる限り、質問と警告のやり取りは何度でも再演できる。

鮫島事件を書き込んだ人物の部屋で端末が突然落ち、直後に玄関の曇りガラスへ複数の人影が立つ
鮫島事件を書き込んだ人物の部屋で端末が突然落ち、直後に玄関の曇りガラスへ複数の人影が立つ
SOURCES

主な参考資料