紙のない便所
よく知られた舞台は、校舎の端にある古い便所である。いちばん奥の個室、または使ってはいけないと決められた個室へ入ると、外から『赤い紙がほしいか、青い紙がほしいか』と尋ねられる。声の主を確かめようとしても、扉の下に足は見えない。
赤と答えた子どもは刃物で切られ、服が血で赤く染まる。青を選ぶと首を絞められ、顔から血の気が引く。質問に色で答えなければ助かるという版もあり、『黄色』と言うと汚物の中へ落とされる、『紙はいらない』と言って逃げる、といった切り抜け方が子ども同士で付け足された。

語りの移り変わり
- 昭和期学校や地域の子ども集団で、便所の声が二色の紙を選ばせる話が各地に伝わる。
- 1990年代児童書、映画、テレビの『学校の怪談』ブームを通じ、赤と青の版が広く知られる。
- 2003年『いまに語りつぐ日本民話集 学校の怪談』に、赤い手・青い手、赤い紙・白い紙の採録例が収められる。
赤と白になる土地
二色は赤と青に限られない。大阪府で採録された話には『赤い紙、白い紙』があり、新潟県には赤い手と青い手を選ばせる話が残る。国際日本文化研究センターのデータベースには、赤い紙を選ぶと便所へ引き込まれ、青い紙を選ぶと急に年を取るという例も収められている。
誰が声をかけるかも一定しない。見えないお化け、亡くなった生徒、赤い外套を着た男、便所に住む手だけの怪物など、土地によって姿が与えられた。質問と二色が残っていれば、結末や正体を変えても同じ怪談として通じた。

低学年へ伝わる話
採録記録には、小学校の低学年、とりわけ一年生の間で話が広まる様子が記されている。上級生が新入生へ便所の場所を教える時に話し、聞いた子どもが別の教室で結末を変えて語る。学校ごとに『何番目の個室』という場所が決まり、その年度の校舎に合わせて細部が更新された。
1990年代に『学校の怪談』の児童書やテレビ番組が相次ぐと、赤と青の版が全国で知られるようになった。それ以前に採録された赤白の話や、赤い外套を名乗る古い怪談も一緒に紹介され、現在は複数の系統が交じった形で語られている。






