安全ピンで開けた穴
代表的な話では、校則や親の目を避けたい少女が、店や病院へ行かず自分でピアス穴を開ける。使うのは安全ピンや縫い針で、氷で耳たぶを冷やしてから一気に刺す。数日後、赤く腫れた穴から白いものがのぞいていた。消毒綿の繊維だと思って引くと、視界が消える。
病院へ運ばれた少女は、医師から白い糸が視神経だったと聞かされる。版によっては片目だけが見えなくなり、別の版では両目を失明する。糸が脳につながっていて植物状態になる結末もあり、体のどこまで引き出したかによって被害が大きくなる。

語りの移り変わり
- 1990年代前半までピアス穴から白い糸が出て、引くと失明する話が日本の若者の間で流通する。
- 1994年11月白水社から『ピアスの白い糸―日本の現代伝説』が刊行される。
- 1990年代後半White Stringの名で英語圏へ広がり、鼻ピアスなどの異説が現れる。
耳と目は一本の糸でつながらない
視神経は眼球の後ろから脳へ伸びており、耳たぶのピアス穴へ出てくることはない。耳たぶには皮膚、脂肪、血管、末梢神経があるが、糸のような視神経を引き抜いて失明するという構造にはなっていない。
ただし、自分で穴を開ければ感染や金属アレルギー、裂傷は起こりうる。傷から出る分泌物が固まったり、繊維が付着したりすることもある。実際に起こる小さな異変へ、取り返しのつかない失明を結びつけたため、ピアスを開ける前の若者へ強く残った。

1994年には本の題名になる
池田香代子らが編んだ『ピアスの白い糸―日本の現代伝説』は、1994年11月に白水社から刊行された。表題に選ばれた時点で、この話は一地域の噂ではなく、聞き取りや採録の対象になるほど広まっていた。同書では車、人体、動物、家族など身近な題材の噂と並べて収められている。
当時は若者の間でピアスが身近になり、家庭や学校では身体を傷つける行為として警戒されていた。穴を開ける場面を知らない大人にも、白い糸の結末だけで危険を伝えられる。友人から聞いた話、保健室の先生が言った話、近所の高校生に起きた話として、語り手に近い人物へ置き換えられた。

海外へ渡ったWhite String
1990年代半ば以降、この話は英語圏のウェブサイトやメールにも現れた。White Stringと呼ばれ、耳の穴から出た糸を切ったために失明する版が語られる。鼻ピアスへ舞台を移し、糸を脳へつながる組織とする話も作られた。
海外の再話から日本へ戻った版では、外国で実際に起きた医療事故として紹介されることがある。しかし、日本では1994年の採録が確認でき、海外での流行より早い。インターネットが国境を越えて普及した時期に、日本の学校や若者の間にあった話が別の言語へ移り、少し違う身体の怪談になった。





