現代怪異資料館MODERN KAIKI ARCHIVE
奇怪千万現代怪異資料館消えるヒッチハイカー
FILE 38 / 道路・幽霊

消えるヒッチハイカー

きえるひっちはいかー

乗せた客が目的地の前で消える

雨の夜、運転手は道端に立つ若い女性を見つけた。白い服は濡れ、傘も持っていない。女性が告げた住所へ向かい、家の前で後部座席を振り返ると、誰もいなかった。不審に思って玄関を訪ねると、年老いた夫婦が一枚の写真を見せる。そこに写っていたのは、今しがた車へ乗せた女性だった。夫婦の娘は、何年も前、同じ道で事故に遭って亡くなっていた。

雨の夜道で開いた車の後席と遠い人影を描いた消えるヒッチハイカー
雨の夜道で開いた車の後席と遠い人影を描いた消えるヒッチハイカー

家へ着く前に消える客

運転手が女性を拾うのは、町外れの道路、橋のたもと、ダンスホールから続く道などである。女性は寒そうにしているが、質問にはほとんど答えない。住所だけを告げて後部座席へ座り、車が目的地へ近づくと姿を消す。ドアを開けた音も、走り去る足音も聞こえない。

家人は運転手の話を聞き、写真を持ってくる。女性は交通事故で亡くなった娘で、命日が来るたびに同じ場所から帰ろうとするという。借りた上着だけが墓の上に置かれていた、女性が座った場所に水たまりが残った、と証拠が一つ加わる版もある。

雨の指定停車場所に停めたタクシーの閉じた後部座席へ淡い成人影が現れる場面
雨の指定停車場所に停めたタクシーの閉じた後部座席へ淡い成人影が現れる場面

語りの移り変わり

  1. 自動車普及以前馬車や徒歩の旅人が、道で出会った死者を送り届ける話が各地に伝わる。
  2. 1930年代以降シカゴ郊外でリザレクション・メアリーの目撃談が語られる。
  3. 1981年ブルンヴァンドが『The Vanishing Hitchhiker』を刊行する。
  4. 1990年代以降邦訳や都市伝説集を通じ、日本でも代表的な現代伝説の型として紹介される。

リザレクション・メアリー

アメリカでよく知られる名付きの例が、シカゴ郊外のリザレクション・メアリーである。若い女性がダンスホールの近くで車を止め、リザレクション墓地の前で降ろしてほしいと頼む。墓地へ着くと車内から消え、門の向こうへ白い姿が入ったという目撃談が重なった。

女性を、1930年代に交通事故で亡くなった特定の人物へ結びつける説もある。ただし、事故の日付や本名は語り手によって異なる。墓地、ダンス用の白いドレス、夜道という手がかりから、後になって複数の事故記録が候補に選ばれた。

雨の指定停車帯に停めた車のそばで成人の乗客が屋根の下に立つ場面
雨の夜、運転者は一人で立つ見知らぬ女を車へ乗せる

ブルンヴァンドが集めた話

民俗学者ジャン・ハロルド・ブルンヴァンドは1981年、『The Vanishing Hitchhiker』を刊行した。友人の友人に起きた本当の出来事として語られる身近な噂を集め、その表題に消える同乗者の話を選んだ。各地で地名や家族関係が違っても、車へ乗る、消える、故人と分かるという順序が繰り返されていた。

自動車が普及する前にも、旅人が馬車へ女性を乗せ、家へ着くと消えている話はあった。さらに古い説話には、道で出会った死者を家まで送る筋がある。自動車の怪談になってからは、事故現場と命日を細かく指定し、最近起きた出来事として語り直せるようになった。

雨の道路を走る運転者が前方を見続け、ルームミラーに淡い成人影だけが映る場面
走行中、ルームミラーに映っていた乗客の姿が薄れていく

日本のタクシー怪談

日本では、手を上げた女性をタクシーが乗せる版が多い。運転手が墓地や郊外の住所へ着き、料金を受け取ろうとすると後部座席は空になっている。会社へ戻るとシートが濡れていた、無線には乗車記録が残っていなかった、と続く。

東日本大震災後には、被災地で亡くなった人を乗せたというタクシー運転手の証言が調査された。これらは欧米の型をそのまま移した匿名の噂とは異なり、運転手が乗車場所や会話を語った記録である。日本で『消えるヒッチハイカー』を紹介する際には、古くからある型と、災害後に聞き取られた個別の体験が並べられることがある。

雨の目的地の家の前で車を降りた運転者だけが残り、後部座席が空になった場面
目的地へ着く前に、後部座席の女は跡形もなく消えていた
目的地の家で老女が運転者へ古い肖像写真を見せ、消えた乗客と同じ女性だと判明する場面
家族が示した写真から、乗せた女はすでに亡くなっていたと分かる
SOURCES

主な参考資料