現代怪異資料館MODERN KAIKI ARCHIVE
奇怪千万現代怪異資料館三本足のリカちゃん
FILE 41 / 玩具・電話

三本足のリカちゃん

さんぼんあしのりかちゃん

玩具の個体差が歩く人形の噂になる

放課後、女子トイレの個室へ入ると、便器の脇にリカちゃん人形が立っている。拾い上げてスカートの中をのぞくと、二本の脚の間からもう一本、細い脚が伸びていた――。三本足のリカちゃんは、身近な玩具の姿を少しだけ変えた学校怪談である。トイレで出会う話のほか、工場で誤って作られた人形を持ち帰る話、深夜の電話口から居場所を告げる話も各地で聞かれた。

古いガラス棚の無名の人形が床へ三本の脚の影を落とす
古いガラス棚の無名の人形が床へ三本の脚の影を落とす

放課後のトイレに立つ人形

よく知られた筋では、舞台は学校の女子トイレである。誰もいないはずの個室から物音がし、扉を開けると小さな人形が置かれている。人形は見慣れた顔をしているが、脚が三本ある。見た子は高熱を出す、追いかけられる、秘密を誰かへ話すまで学校から帰れない、と結末は学校ごとに変わった。

国際日本文化研究センターの怪異・妖怪伝承データベースには、島根県で採録された『トイレのリカちゃん』が収められている。要約は『トイレに三本足のリカちゃんがいる』という短いものだ。詳しい由来や対処法がないからこそ、子どもたちは自分の学校の個室や階段を舞台にして続きを足せた。

薄暗い人形部屋で一体の人形から三本に分かれた長い影が床へ伸びる場面
薄暗い人形部屋で一体の人形から三本に分かれた長い影が床へ伸びる場面

語りの移り変わり

  1. 1980~90年代学校のトイレや玩具店を舞台に、三本脚のリカちゃん人形の噂が子どもたちの間で広がる。
  2. 1990年代学校怪談ブームの児童書や口コミで、電話、追跡、製造ミスなどの筋が重なっていく。
  3. 2003年松山ひろし著『3本足のリカちゃん人形―真夜中の都市伝説』が刊行される。
  4. 現在トイレで採録された伝承と、電話・工場を舞台にした再話が並んで紹介されている。

工場から出た一体という噂

別の話では、人形工場の金型に異常が起き、三本脚の一体ができあがる。検品で捨てられたはずなのに玩具店へ届いた、工員が面白半分に持ち帰った、処分しても倉庫へ戻ってくる、と筋が分かれる。買った子が夜中に足音を聞き、朝になると人形の立つ場所が変わっていたという版もある。

工場事故で亡くなった子の脚を取り付けた、作業員が恨みを込めた、という説明は後から加わったものが多い。特定の工場名や事件を裏づける記録は確認されていない。量産品なら同じ姿で並ぶはずだという常識が、一本多い脚によって崩れるところに、この噂の気味悪さがあった。

夜の子ども部屋で女子児童が人形棚を背に古い電話へかける場面
少女は夜、一人で人形の電話サービスへ電話をかける

電話の怪談と混ざる

リカちゃんには、メーカーが用意した電話サービスが長く親しまれてきた。子どもが番号へかけると、録音されたリカちゃんの声が近況を話す。この身近な仕組みに『深夜だけ声が変わる』『三本足の人形が電話へ出る』という噂が結びついた。

電話版では、受話器の向こうの人形が『いま学校にいる』『いま玄関の前にいる』と少しずつ近づく。最後に自分の背後へ来る筋は『メリーさんの電話』に近い。三本足の姿と電話で追ってくる筋は、初めから一組だったわけではない。口伝えや怪談本の再話を重ねるうち、二つの人形怪談が重なったと考えられる。

電話の声が変わった後、少女が人形棚の空席と電話へ続く三つの小さな足跡を見る場面
受話器の声が変わり、人形棚から一体が消えて三本分の足跡が残る

人形の名前が残った理由

リカちゃんは1967年に発売され、家や学校で多くの子どもが実物に触れてきた。顔も服も大きさも知っている。語り手が細かな外見を説明しなくても、『リカちゃん』の一言で同じ人形を思い浮かべられた。そこへ三本目の脚を一本足すだけで、見慣れた玩具が怪異へ変わる。

2003年には松山ひろしの都市伝説集『3本足のリカちゃん人形』が刊行され、題名そのものが広く知られるようになった。ただし、収録本に載った筋だけが唯一の原話ではない。トイレ、電話、工場という三つの舞台を行き来しながら、それぞれの学校で別の三本足が語られてきた。

三本の脚を持つ人形が夜の集合住宅の廊下を一人で歩いて少女へ近づく場面
三本足の人形は、電話をかけた少女の居場所へ歩いて近づく
受話器を持つ少女の背後の半開き扉に三本足の人形が到着して立つ場面
電話の声が現在地を告げ続け、ついに人形は少女の背後へ現れる
SOURCES

主な参考資料