放課後のトイレに立つ人形
よく知られた筋では、舞台は学校の女子トイレである。誰もいないはずの個室から物音がし、扉を開けると小さな人形が置かれている。人形は見慣れた顔をしているが、脚が三本ある。見た子は高熱を出す、追いかけられる、秘密を誰かへ話すまで学校から帰れない、と結末は学校ごとに変わった。
国際日本文化研究センターの怪異・妖怪伝承データベースには、島根県で採録された『トイレのリカちゃん』が収められている。要約は『トイレに三本足のリカちゃんがいる』という短いものだ。詳しい由来や対処法がないからこそ、子どもたちは自分の学校の個室や階段を舞台にして続きを足せた。

語りの移り変わり
- 1980~90年代学校のトイレや玩具店を舞台に、三本脚のリカちゃん人形の噂が子どもたちの間で広がる。
- 1990年代学校怪談ブームの児童書や口コミで、電話、追跡、製造ミスなどの筋が重なっていく。
- 2003年松山ひろし著『3本足のリカちゃん人形―真夜中の都市伝説』が刊行される。
- 現在トイレで採録された伝承と、電話・工場を舞台にした再話が並んで紹介されている。
工場から出た一体という噂
別の話では、人形工場の金型に異常が起き、三本脚の一体ができあがる。検品で捨てられたはずなのに玩具店へ届いた、工員が面白半分に持ち帰った、処分しても倉庫へ戻ってくる、と筋が分かれる。買った子が夜中に足音を聞き、朝になると人形の立つ場所が変わっていたという版もある。
工場事故で亡くなった子の脚を取り付けた、作業員が恨みを込めた、という説明は後から加わったものが多い。特定の工場名や事件を裏づける記録は確認されていない。量産品なら同じ姿で並ぶはずだという常識が、一本多い脚によって崩れるところに、この噂の気味悪さがあった。

電話の怪談と混ざる
リカちゃんには、メーカーが用意した電話サービスが長く親しまれてきた。子どもが番号へかけると、録音されたリカちゃんの声が近況を話す。この身近な仕組みに『深夜だけ声が変わる』『三本足の人形が電話へ出る』という噂が結びついた。
電話版では、受話器の向こうの人形が『いま学校にいる』『いま玄関の前にいる』と少しずつ近づく。最後に自分の背後へ来る筋は『メリーさんの電話』に近い。三本足の姿と電話で追ってくる筋は、初めから一組だったわけではない。口伝えや怪談本の再話を重ねるうち、二つの人形怪談が重なったと考えられる。

人形の名前が残った理由
リカちゃんは1967年に発売され、家や学校で多くの子どもが実物に触れてきた。顔も服も大きさも知っている。語り手が細かな外見を説明しなくても、『リカちゃん』の一言で同じ人形を思い浮かべられた。そこへ三本目の脚を一本足すだけで、見慣れた玩具が怪異へ変わる。
2003年には松山ひろしの都市伝説集『3本足のリカちゃん人形』が刊行され、題名そのものが広く知られるようになった。ただし、収録本に載った筋だけが唯一の原話ではない。トイレ、電話、工場という三つの舞台を行き来しながら、それぞれの学校で別の三本足が語られてきた。





