欠勤した男の部屋
桜金造が語る版では、連絡もなく欠勤を続ける男を心配し、会社の同僚が自宅へ向かう。男は部屋にいるが、ひどく怯えて外へ出ようとしない。理由を尋ねると、『彼女が動くなと言っている』と答え、家具の脇にある細い隙間を指さす。
同僚がのぞくと、赤い服の女が隙間の奥に立っている。体が薄いわけでも、小さくなっているわけでもない。普通の女が、入れるはずのない場所からこちらを見ている。助けに来た同僚まで視線を合わせたところで話が終わる版もあれば、男を無理に連れ出した後、別の隙間に女が現れる版もある。

語りの移り変わり
- 2000年代初頭まで桜金造が『1ミリの女』『隙き間の女』と呼ばれる怪談を口演し、知られるようになる。
- 2004年『THE都市伝説』『壁女―真夜中の都市伝説』に隙間女の話が収録される。
- 2000年代後半怪談サイトや掲示板で、本棚の隙間から別の家まで追ってくる版が転載される。
- 2014年永江二朗監督の『隙間女 劇場版』が公開される。
目が合った後についてくる
一人暮らしの男が本棚と壁の間に女を見つける話も広まった。最初に見えるのは片目だけで、明かりを当てると青白い顔が浮かぶ。家具を動かして確かめても、壁には何もいない。元の位置へ戻すと、同じ目がまた現れる。
男が友人の家へ逃げると、今度は箪笥の脇から女が見ている。ホテルへ移っても、ベッドと壁の間に立っている。いったん目を合わせた相手の行く先へついてくるという筋である。最後は、閉じたノートパソコンのわずかな隙間や、男が横たわる棺の蓋の下にまで現れる。

2004年の都市伝説集
隙間女は、宇佐和通『THE都市伝説』と松山ひろし『壁女―真夜中の都市伝説』に収録されている。どちらも2004年刊行で、インターネットの掲示板や怪談サイトが普及する時期と重なる。語り手の芸として知られた話が、書籍や転載を通じて題名付きの都市伝説として整理された。
江戸時代の怪談に同じ名の女がいたという紹介も見かけるが、戸を閉めると女が現れる話と、家具の隙間からのぞく現在の筋は同じではない。少なくとも、今広く知られる赤い服の女と会社員の話は、現代の住居と勤め人を登場させている。

舞台は映画とネット動画へ
2014年には『隙間女 劇場版』が公開された。行方不明になった姉の部屋へ妹と友人が入り、家具の隙間に潜む怪異へ近づいていく。67分の作品で、短い口演の筋から登場人物と因縁を増やし、一本の映画に作り替えた。
その後の投稿怪談では、ロッカー、エレベーターの扉、カーテンの合わせ目、スマートフォンの縁まで女の居場所が増えた。それでも中心に残るのは、毎日見ている部屋の寸法が突然信用できなくなる瞬間だ。家具を動かせば消えるのに、元へ戻すとまた見ている。その繰り返しが、逃げ場を一つずつ塞いでいく。





