園児だけが知っていた名前
2003年に投稿されたとされる保育園の話では、最初に見つかったのは小さな虫だった。墓地の柵へ刺さっているものがトカゲ、モグラと大きくなり、猫まで被害に遭う。大人たちが警戒するなか、保育園で飼っていたウサギも柵に刺された。
園児はウサギの死を悲しみながらも、『ヒサルキだから仕方ない』と口にする。誰に教わったのか尋ねても答えない。以前、ヒサルキという題の絵を描いた子がいたと分かるが、その子はすでに引っ越していた。引っ越しの日、その子は車内で両目に眼帯をしていたという。その後、鶏が一羽刺されたのを最後に、動物の被害は止まった。

語りの移り変わり
- 2003年寺の保育園で動物が柵へ刺され、園児だけがヒサルキの名を知っているという話が投稿される。
- 2000年代動物の異常や子どもの言葉を扱う別投稿が、ヒサルキやイサルキの名で集められる。
- 2011年3月27日小柄な男と子猫をめぐる『クラシマヒサユキ』が2ちゃんねるへ投稿される。
- 2010年代以降複数の投稿を時系列で並べたまとめや考察が作られ、連作型のネット怪談として定着する。
子猫を受け取りに来た少年
2011年3月27日、『クラシマヒサユキ』という長い体験談が2ちゃんねるのスレッドへ投稿された。語り手が小学生だった頃、飼い猫が六匹の子を産む。きょうだいで貰い手を探していると、見知らぬ五年生くらいの少年が家へ来て、同級生Aに頼まれたと言い、残っていた子猫を連れていった。
翌日、語り手がAへ礼を言うと、Aは話を避けた。しばらく後、語り手と母親は、Aを殴る例の少年に出会う。子どもたちには同年代に見えたが、母親には異様に小柄な成人男性としか見えない。母親がAを助けようと学校や家庭へ連絡したものの、ほどなくA一家は引っ越した。

玄関へ戻された猫の首
少年へ渡した子猫は、首だけになって語り手の家の玄関へ置かれた。不思議なことに、何週間も経ったはずなのに、首は渡した日の大きさのままだった。同じ腹から生まれた猫たちは、その間にひと回り大きくなっていた。
弟は学校で『ひさゆき』と話したと言い、自分たちが事故で死ぬところを子猫が身代わりになったのだと聞かされていた。Aは『ひさゆきは子どもじゃない。私とも関係ない』と怒り、その後学校へ来なくなる。語り手の学校では半年ほど、ヒサユキと遊んだ子が自慢する奇妙な流行が続いた。フルネームはクラシマヒサユキだった。

別々の話をつないだ五文字
ヒサルキには、一つの長編原話があるわけではない。保育園の柵、子猫を受け取る小柄な男、動物へ何かが憑く話など、投稿時期も語り手も違う断片が先にあった。読者は『ヒサルキ』『イサルキ』『ヒサユキ』という似た音と、子どもや動物が関わる点を手がかりに、同じ存在の仕業ではないかと考え始めた。
猿の怪異だとする説や、『妃猿忌』『猿忌』などの漢字を当てる説も後から現れた。1935年刊行の佐藤清明『現行全国妖怪辞典』にある岡山県の憑き物『ヒーヒーザル』を原型候補に挙げる記事もある。ただし、初期投稿の園児は姿も由来も説明していない。大人が知らない名を子どもたちだけが共有していた、という場面を残したまま話は途切れている。





