遠くで踊っていた女
よく転載される筋では、語り手は高層の部屋から新しい望遠鏡を試している。向かいの住宅や道路へレンズを向けるうち、暗い広場で踊る女を見つけた。顔を左右へ振り、腕を大きく回している。酔っているのかと思い、そのまま見ていると、女が急に止まる。
顔を上げた女とレンズ越しに目が合う。裸眼では表情も分からないほど離れているのに、女は自分が見られていたと知っている。口を大きく開けて笑った後、建物の方角へ走り始める。語り手が望遠鏡を外し、窓から下を見ると、女の姿はもう最初の場所にない。

語りの移り変わり
- 2000年代望遠鏡や双眼鏡で見つけた女が、見ていた人物の住居へ走ってくる短編が掲示板やまとめサイトで流通する。
- 2003年2月雪山で測量中に望遠鏡越しの女を見る別話『山の測量』が投稿される。
- 2012年7月山頂の望遠鏡に傷だらけの女の顔が映る、雷鳥一号の短編『望遠鏡』が投稿される。
- 現在町、集合住宅、山の展望台を舞台にした別々の短編が、朗読や動画で再話されている。
距離が縮まるたびに覗き直す
語り手は恐ろしくなりながらも、女の居場所を確かめようと再びレンズへ目を当てる。女は交差点を渡り、こちらへ近づいている。次に見たときは建物の入口に立ち、さらに次には階段を上がってくる。玄関の外から足音が聞こえたところで終わる版もある。
別の短い話では、遠くの女が両手を目の前で丸め、望遠鏡をまねて見返す。追ってこなくても、相手がこちらの部屋を正確に知った時点で話は終わる。距離を保ったまま終えるか、玄関まで来させるかで結末は分かれる。

似た題の短編がいくつもある
ネット上には『望遠鏡』や『双眼鏡』の題で、別々の怪談が投稿されてきた。2012年7月13日に『山にまつわる怖い・不思議な話』へ投稿された雷鳥一号の短編では、山頂の展望台から望遠鏡をのぞくと、口を開け、顔に赤い筋の走る女が突然見える。友人が代わると普通の景色しか映らない。
2003年2月の『山の測量』では、測量用の望遠鏡を通して、雪山で同僚の背後に立つ女を見つける。女は同僚の耳元で何かをささやき、吹雪の中へ連れていく。この二編は、町の女が走ってくる話とは登場人物も結末も違う。題名だけで一つの原話にまとめると、別の投稿が混ざってしまう。

短い動画へ移しやすい怪談
望遠鏡をのぞく場面は、見える範囲を丸い画面へ限定できる。女が動きを止め、こちらへ顔を向ける瞬間も一目で伝わる。そのため掲示板の短編は、朗読動画や短編映像へ何度も移された。映像版では、白い服、長い髪、裂けた口など、元の投稿にない外見が足されることがある。
話の前半で、語り手は遠くの人物を一方的に観察している。後半では、女が同じことをやり返し、見ていた部屋へ来る。どれほど離れていたかを知るために使った望遠鏡が、女の接近を一段ずつ確かめる道具へ変わっていく。





