現代怪異資料館MODERN KAIKI ARCHIVE
奇怪千万現代怪異資料館邪視
FILE 45 / ネット・山村

邪視

じゃし

見られた者を内側から崩す視線

冬休み、十四歳の少年は三十代の叔父に誘われ、N県の山中にある別荘へ遊びに行った。翌日の昼、ベランダから望遠鏡で裏山を眺めていると、真冬なのに裸で鎌を持ち、体を揺らしている者を見つける。頭に毛はなく、眉間には縦に裂けた目が一つだけあった。レンズ越しに目が合った瞬間、少年は理由もなく死にたくなり、泣き叫びながら部屋を走り回った。

夕暮れの田畑の柵外に二つの淡い目を持つ遠い影を描いた邪視
夕暮れの田畑の柵外に二つの淡い目を持つ遠い影を描いた邪視

裏山を望遠鏡で見る

別荘へ着いた夜、叔父は少年とバーベキューをし、深夜までゲームや怪談を楽しんだ。その途中で『裏山には絶対に入るな』と念を押す。地元の人もめったに入らず、近くの別荘を持っていた社長が山で首をつったこともあるという。二人が眠ったのは明け方だった。

昼すぎに目を覚ました少年は、叔父を起こさずベランダへ出た。望遠鏡で鳥や木々を追っているうち、裸の人影が視界へ入る。白い体をくねらせ、右手には錆びた鎌を持っていた。ズームを上げると相手が振り向き、一つしかない目でこちらを見て笑う。少年の叫び声で叔父が駆け込み、同じものを見て床に崩れた。

夕暮れの山あいの家と柵の外に立つ成人の影を遠くから望む場面
夕暮れの山あいの家と柵の外に立つ成人の影を遠くから望む場面

語りの移り変わり

  1. 2008年1月N県の別荘で一つ目の怪異に遭遇する長編『邪視』が掲示板へ投稿されたとされる。
  2. 2008年以降洒落怖の代表作としてまとめサイトへ転載され、朗読や映像で再話される。
  3. 2010年代一つ目、鎌、白い体、尿を嫌うという外見と対処が怪異事典やファンサイトへ整理される。
  4. 現在世界各地の邪眼信仰と比較される一方、投稿内の怪異は固有の物語として紹介されている。

山を下りながら近づいてくる

我に返った叔父は、その目を『邪視』と呼んだ。机からサングラスを出し、二人でもう一度望遠鏡をのぞく。色の濃いレンズ越しでも気分は沈むが、直に見たときほど強くない。怪異は視線を別荘へ向けたまま、奇妙な踊りを続けて山を下っていた。

車で逃げようとする少年を、叔父は止める。相手の興味をそらさなければ、どこまでも追ってくると考えたからだ。二人はサングラス、双眼鏡、懐中電灯、木製バットと食料をリュックへ入れ、尿をペットボトルにためた。暗くなる前に決着をつけようと、別荘から五百メートルほど山へ入った開けた場所で待つ。

山中の古い祠の隙間で巨大な一つ目が開き、目撃した成人へ視線を向ける場面
山で邪視の目を見た瞬間、相手にもこちらの存在を知られてしまう

亡くなった弟の声で目を覚ます

交代で見張っていたはずが、少年も叔父も眠り込んでしまう。少年は、十歳のとき事故で亡くなった弟から『起きないと死んじゃうぞ』と呼ばれる夢を見て目を開けた。時計は五時半。薄暗い茂みから、甲高い民謡のような歌が聞こえてくる。

叔父に言われて足元だけを照らしたが、怪異は四つんばいになり、懐中電灯の光へ一つ目を差し入れた。二人はまた目を見てしまい、泣きながら動けなくなる。そのとき圏外のはずの叔父の携帯電話が鳴った。別れた恋人からの着信を見た叔父は正気を取り戻し、少年へ目を閉じるよう叫んだ。

邪視を受けた成人が家の床へ倒れて頭を抱え、窓に巨大な目の光が浮かぶ場面
邪視を受けた者は帰宅後も視線から逃れられず、心身へ異常を起こす

叔父が知っていた邪視

叔父はライトで相手の顔を照らし、位置を確かめるときだけ薄目を開けた。少年のペットボトルから尿を口に含み、一つ目へ霧のように吹きかける。怪異は悲鳴を上げたが、まだ退かない。叔父が下半身をさらすと、相手は聞き取れない言葉で激しく罵り、ようやく背を向けた。歌いながら老人のような速さで山へ戻り、二人は姿が闇へ消えるまで見届けた。

叔父は以前、仕事で滞在した北欧の町で『邪視の持ち主』と呼ばれる男に会っていた。椅子へ縛られた状態で男と一、二秒目を合わせただけで、叔父は死にたい衝動に襲われたという。その男は後に汚物をまかれた部屋で、自分の目をえぐって死んだと聞かされた。山の一つ目が人間か怪物かは分からない。それでも叔父は、邪視が不浄なものを嫌うという話へ賭け、少年を連れて山を下りた。

家族の一人が窓外の巨大な目を見続け、ほかの家族が室内の鏡を布で覆い伏せる場面
家族は一人が邪視を見返す間に、代々伝わる手順で鏡を伏せて対処する
暗い家の祭壇前で年長者が若い家族へ覆った鏡と山の祠を使う邪視の儀式を伝える場面
邪視への対処は家系の秘密として次の世代へ受け継がれる
SOURCES

主な参考資料