裏山を望遠鏡で見る
別荘へ着いた夜、叔父は少年とバーベキューをし、深夜までゲームや怪談を楽しんだ。その途中で『裏山には絶対に入るな』と念を押す。地元の人もめったに入らず、近くの別荘を持っていた社長が山で首をつったこともあるという。二人が眠ったのは明け方だった。
昼すぎに目を覚ました少年は、叔父を起こさずベランダへ出た。望遠鏡で鳥や木々を追っているうち、裸の人影が視界へ入る。白い体をくねらせ、右手には錆びた鎌を持っていた。ズームを上げると相手が振り向き、一つしかない目でこちらを見て笑う。少年の叫び声で叔父が駆け込み、同じものを見て床に崩れた。

語りの移り変わり
- 2008年1月N県の別荘で一つ目の怪異に遭遇する長編『邪視』が掲示板へ投稿されたとされる。
- 2008年以降洒落怖の代表作としてまとめサイトへ転載され、朗読や映像で再話される。
- 2010年代一つ目、鎌、白い体、尿を嫌うという外見と対処が怪異事典やファンサイトへ整理される。
- 現在世界各地の邪眼信仰と比較される一方、投稿内の怪異は固有の物語として紹介されている。
山を下りながら近づいてくる
我に返った叔父は、その目を『邪視』と呼んだ。机からサングラスを出し、二人でもう一度望遠鏡をのぞく。色の濃いレンズ越しでも気分は沈むが、直に見たときほど強くない。怪異は視線を別荘へ向けたまま、奇妙な踊りを続けて山を下っていた。
車で逃げようとする少年を、叔父は止める。相手の興味をそらさなければ、どこまでも追ってくると考えたからだ。二人はサングラス、双眼鏡、懐中電灯、木製バットと食料をリュックへ入れ、尿をペットボトルにためた。暗くなる前に決着をつけようと、別荘から五百メートルほど山へ入った開けた場所で待つ。

亡くなった弟の声で目を覚ます
交代で見張っていたはずが、少年も叔父も眠り込んでしまう。少年は、十歳のとき事故で亡くなった弟から『起きないと死んじゃうぞ』と呼ばれる夢を見て目を開けた。時計は五時半。薄暗い茂みから、甲高い民謡のような歌が聞こえてくる。
叔父に言われて足元だけを照らしたが、怪異は四つんばいになり、懐中電灯の光へ一つ目を差し入れた。二人はまた目を見てしまい、泣きながら動けなくなる。そのとき圏外のはずの叔父の携帯電話が鳴った。別れた恋人からの着信を見た叔父は正気を取り戻し、少年へ目を閉じるよう叫んだ。

叔父が知っていた邪視
叔父はライトで相手の顔を照らし、位置を確かめるときだけ薄目を開けた。少年のペットボトルから尿を口に含み、一つ目へ霧のように吹きかける。怪異は悲鳴を上げたが、まだ退かない。叔父が下半身をさらすと、相手は聞き取れない言葉で激しく罵り、ようやく背を向けた。歌いながら老人のような速さで山へ戻り、二人は姿が闇へ消えるまで見届けた。
叔父は以前、仕事で滞在した北欧の町で『邪視の持ち主』と呼ばれる男に会っていた。椅子へ縛られた状態で男と一、二秒目を合わせただけで、叔父は死にたい衝動に襲われたという。その男は後に汚物をまかれた部屋で、自分の目をえぐって死んだと聞かされた。山の一つ目が人間か怪物かは分からない。それでも叔父は、邪視が不浄なものを嫌うという話へ賭け、少年を連れて山を下りた。





