鏡の中に現れる老婆
東京都東久留米市で採録された話では、紫ババアは学校のトイレにある鏡の中から飛び出してくる。紫色の物を持ち、『紫、紫』と唱えれば助かるという。国際日本文化研究センターの怪異・妖怪伝承データベースにも、この採録が『トイレの鏡には紫ばばあがいる』と収められている。
鏡を使わない学校もある。夕方の三時に個室の扉を十回たたくと現れる、壁の穴を塞いだ紙を破って出てくる、廊下の突き当たりで待っている、と場所も呼び出し方も違う。何もしなくても突然現れ、長い爪で追ってくる話まであった。

語りの移り変わり
- 1980年代まで東京近郊の学校で、トイレの鏡に紫色の老婆がいるという話が採録される。
- 1987年松谷みよ子『現代民話考 第二期II』に東久留米市の紫ばばあが収録される。
- 1990~91年『学校の怪談』『放課後のトイレはおばけがいっぱい』で異なる版が紹介される。
- 2005年児童書『紫ババアレストラン』が刊行され、学校怪談の登場人物として定着する。
『紫』と答えれば助かる
代表的な版では、老婆が子どもへ好きな色を尋ねる。『紫』と答えれば姿を消すが、ほかの色を口にすると肝臓を抜かれる。質問をせずに襲ってくる版でも、『ムラサキ』と三回続けて唱えると逃げられる。学校でこの話を聞いた子は、紫色の折り紙や文房具をお守り代わりに持つこともあった。
答えを知っていれば切り抜けられる怪談は、休み時間の遊びに向いている。聞き手は怖がるだけで終わらず、次に友だちへ話すときには呼び出し方と逃れ方を一緒に教えられる。回数や時刻が変わっても、『紫』という合言葉だけは残りやすかった。

貧しい少女の紫の着物
『放課後のトイレはおばけがいっぱい』に収められた由来譚では、貧しい少女が古い着物一枚で暮らしていた。ある日、裕福な家から紫色の美しい服が風に飛ばされてくる。少女が拾うと泥棒の疑いをかけられ、汚名をそそげないまま年を取り、老婆になって亡くなった。その家の跡地に建った学校のトイレへ現れるようになったという。
この由来がすべての紫ババアに付いているわけではない。名前と姿だけで語られる学校も多く、亡くなった清掃員や近所の老婆へ由来を替えた話もある。聞き慣れない怪異を自分の学校へ移すとき、校舎が建つ前の出来事が後から用意された。

1980年代から児童書へ
松谷みよ子の『現代民話考 第二期II』は1987年に刊行された。紫ババアの記録は、1990年代の学校怪談ブームより前に、東京近郊の子どもたちの間でこの名が使われていたことを伝える。1990年の常光徹『学校の怪談』や、翌年の『放課後のトイレはおばけがいっぱい』にも別の筋が載った。
2005年には『怪談レストラン』シリーズの一冊『紫ババアレストラン』が刊行され、書名にもなった。花子さんの親戚と呼ばれる版、赤マントや三時ババアと同じ学校に住む版も生まれた。紫ババアは一人の決まった幽霊というより、各校のトイレ怪談が共有した呼び名として残っている。





