生け垣の向こうを歩く女
青年は、背の高い人が厚底の靴でも履いていたのだろうと思い、祖父母へ何気なく話した。ところが、帽子をかぶっていたことと、ぽぽぽと声を出していたことを告げた瞬間、二人の動きが止まった。祖父は女を見た時刻と場所を細かく聞き、その日のうちに帰る予定だった孫を家へ泊めると決める。
祖母が口にした名は、八尺様だった。喪服の若い女、留袖の老婆、野良着の年増など、見る人によって姿は違う。八尺ほどの背丈があり、頭に何かを載せ、男のような低い声を出す点は共通していた。村境の四方に置いた地蔵が土地から出ないよう押さえているが、一度目をつけられた若者は数日以内に命を落とすという。

語りの移り変わり
- 2008年8月26日2ちゃんねるのオカルト板へ、青年の体験談として全編が連続投稿される。
- 2000年代末から2010年代まとめサイトと怪談朗読で再録され、白い服、帽子、低い声が定番になる。
- その後漫画、ゲーム、映像作品、海外のネット怪談へ登場し、原投稿にない姿や行動も加わる。
窓を塞いだ二階の部屋
祖父は、Kさんと呼ばれる老婆を連れて戻った。二人は二階の一室の窓を新聞紙で塞ぎ、その上から札を貼る。四隅には盛り塩を置き、木箱の上に小さな仏像を据えた。青年は札を持たされ、翌朝七時まで何があっても部屋から出るなと言い渡された。祖父母が外から呼ぶことも絶対にない、と念を押される。
午前一時すぎ、指先で窓を叩くような音が始まった。やがて祖父そっくりの声が、『怖ければ出てきていい』と呼びかける。青年が扉へ近づきかけた時、部屋の隅に置いた塩が黒く変わっているのに気づいた。仏像の前へ戻り、札を握る。窓の外では、あの低い声とガラスを叩く音が朝まで続いた。

九人乗りの車で村を出る
朝になると、祖父は九人乗りのワンボックス車を用意していた。青年を中列の中央へ座らせ、周囲を血縁のある男たちで囲む。祖父の軽トラックが先頭を走り、父親の車が後ろについた。八尺様の目を血縁者へ散らし、その間に村境を越える手はずだった。
車がゆっくり進み始めると、Kさんが念仏を唱えた。青年には、白いワンピースの女が車と並んで進むのが見えた。女は窓から中をのぞこうと身をかがめ、ガラスを何度も叩く。やがて声と音が途切れ、Kさんが村境を抜けたと告げた。青年が握っていた札は黒くなっていた。父親と自宅へ戻った後、彼は二度と祖父母の家へ近づかなかった。

2008年8月26日の投稿
八尺様の話は2008年8月26日、2ちゃんねるのオカルト板『死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?196』へ連続して投稿された。書き手が女に出会ったのは、それより十年以上前だという。末尾では祖母から電話があり、自宅へ通じる方角の地蔵が壊されたと知らされる。村名と県名は伏せられたままで、投稿より前に同じ名と筋を記録した地域資料は確認されていない。
文化人類学者の廣田龍平は『ネット怪談の民俗学』で、八尺様を、最初から結末まで書かれたネットホラーの例に挙げている。まとめサイトへ転載される際に投稿日時や書き手の情報が省かれ、白い服と帽子の巨女だけを使う短い話が増えた。やがて八尺様は、原文の村を離れ、創作ごとに別の土地へ現れるようになった。

再話で変わった姿
原投稿では、八尺様の服は見る人によって変わる。青年が見たのは白っぽいワンピースと帽子だった。この場面が朗読動画、漫画、ゲームへ繰り返し移され、広いつばの帽子をかぶった白い巨女が定番になった。声の表記には『ぼぼぼ』『ぽぽぽ』『ぽっぽっぽ』がある。
海外では八尺を八フィートと言い換えて紹介する例もあり、日本の八尺とは長さが異なる。若者を狙う、土地の境界を越えられない、家族の声をまねるといった原投稿の筋を残す作品がある一方、背の高い女とすれ違うだけの短い目撃談も作られている。




