納屋から出てきた小箱
友人たちは最初、珍しい細工物として箱を回し見ていた。神社の息子だけは近づこうとせず、吐き気をこらえながら父親へ助けを求めた。とりわけ女性には危険だと言い、別の部屋へ移ってもらう。残った男たちは、電話で教えられたとおりに札や道具をそろえた。
父親は箱の木組みと模様を細かく尋ね、神社に残る記録を調べた。息子は箱を開けず、指示された手順で包み直す。父親が到着して引き取るまで、誰も同じ部屋へ入らないよう戸口を見張った。

語りの移り変わり
- 2005年6月6日2ちゃんねるのオカルト板へ、寄せ木の箱と神社の家系をめぐる話が投稿される。
- 2000年代後半まとめサイトで再編集され、掲示板の外へ広がる。
- 2010年代怪談朗読、動画、画像によって、箱の姿と等級名が広く知られる。
- 2020年代映画、小説、TRPGなどが原話を翻案し、別の人物と舞台で箱を描く。
箱の名前と来歴
父親が調べた記録では、コトリバコは『子取り箱』を意味する。明治初期、周囲から厳しい扱いを受けていた集落へ一人の男が流れ着き、かくまってもらった礼に呪いの作り方を教えた。集落の人々は箱を作り、自分たちを苦しめてきた家へ贈った。その家では女性と子どもが次々に亡くなったという。
箱は作る時に使った子どもの人数で呼び名が変わり、イッポウ、ニホウ、サンポウと数字が上がる。強い箱は保管する側にも害を及ぼすため、複数の家が一定期間ずつ預かり、最後は事情を知る神社へ渡す決まりだった。最上位のハッカイは、集落内にも死者を出したため早く処分されたと記されていた。

掲示板で続いた説明
初出は2005年6月6日、2ちゃんねるのオカルト板にあった『死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?99』である。投稿者は箱を持ってきた女性、神社の息子、その父親から聞いた話を少しずつ書いた。途中で質問が入ると、箱の読み方や等級、古い記録にあった来歴を追って答えている。
後のまとめサイトや朗読動画では、掲示板の質問を省き、箱の発見から由来までを一続きに編集した版が増えた。イッポウやハッカイといった名だけが別の呪物話へ使われることもあり、原投稿にはない開封場面や保管者が加わった再話もある。

地域の史実とは切り離されている
投稿には山陰地方や隠岐を思わせる地名、明治初期の年代、差別を受けた集落の歴史が使われている。ただし、コトリバコという呪物や製法を記した2005年以前の民俗資料は見つかっていない。文中の集落や家系を、現実の地域へ当てはめられる記録もない。
文化人類学者の廣田龍平は、大学時代にコトリバコを卒業論文の題材に選び、その後も出典を追った。2000年代の匿名掲示板には、遠い田舎の閉ざされた習慣を、外から来た人物が知る長編怪談が相次いでいた。転載の際に投稿日時や掲示板名が落ちると、コトリバコも昔から土地に残る呪物として紹介されるようになった。

物語から独立した呪物
2010年代には怪談朗読や動画で何度も扱われ、複雑な木組みを想像した絵や立体作品も作られた。2021年には同名の映画、2024年には小説とTRPGの『新約・コトリバコ』が発表されている。登場人物と舞台は作品ごとに異なるが、女性と子どもへ害を及ぼす箱と、人数で変わる呼び名は引き継がれた。
現在は、元の長編を知らない人にも、コトリバコは『開けてはいけない呪いの箱』の名として通じる。映画では実物の箱が画面へ現れ、ゲームでは参加者が箱の由来を調べる。掲示板では最後まで開けなかった箱が、派生作品ごとに違う姿を与えられた。




