三番目の扉を三回叩く
呼び出し方として広く知られているのは、校舎の三階にある女子トイレへ行き、奥から三番目の個室を三回ノックする手順です。「花子さん、いらっしゃいますか」と尋ねる学校もあれば、「遊びましょ」と誘う学校もあります。返事だけが聞こえる版、扉が勝手に開く版、便器から白い手が伸びてくる版がありました。
花子さんに会った後も一つではありません。便器へ引き込まれる、校内を追われる、話をすれば友達になれる、何も起きず水だけが流れる。子どもたちは自分の学校の棟、階、個室の数に合わせて場所を決め、実際に扉を叩いたときの物音まで次の話へ加えました。

語りの移り変わり
- 1948年ごろ岩手県で、体育館便所の三番目の個室から声と白い手が現れる話が語られる。
- 1970年代から1980年代花子という名、便器から伸びる手、個室を指定する呼び出しが各地で採録される。
- 1990年常光徹『学校の怪談』が刊行され、全国的な学校怪談ブームが始まる。
- 1990年代半ば以降児童書、アニメ、映画、漫画で姿と性格の異なる花子さんが描かれる。
戦後まもない「三番目の花子さん」
教育社会学者の吉岡一志が紹介する早い例は、1948年ごろの岩手県で語られた話です。ある小学校の体育館にある便所で、奥から三番目の個室へ入ると「三番目の花子さん」という声が聞こえ、便器の中から白い手が伸びてきたといいます。この段階では、現在のような服装や顔立ちは語られていません。
日本口承文芸学会の論文「学校の怪談におけるトイレの怪異」は、昭和から平成までの採録例を並べています。花子という名は昭和五十年代の資料にも現れ、平成に入ると複数の採録と出版物で繰り返されます。どこか一校で完成した物語が全国へ配られたのではなく、便所から手が出る話、個室に少女がいる話、名前を呼ぶ遊びが各地で結びつきました。

学校ごとに違う花子さん
個室は奥から三番目とは限りません。一番奥、左から四番目、旧校舎二階など、学校の建物に合わせて変わります。男の子が男子トイレから呼べるという話もあり、山形では「やみ子」、別の地域では「リリーちゃん」や「メアリー」と呼ばれる少女が同じ場所に現れました。
姿も後から整いました。白いブラウス、赤い吊りスカート、おかっぱ頭という組み合わせは有名ですが、採録例には姿が見えないもの、長い髪の女、着物姿、普通の児童と変わらない姿もあります。トイレの鏡に顔が映る、上から覗かれる、掃除用具入れから声がする話が混ざる学校もありました。

1990年代に全国の人気者になる
1990年、中学校教師だった民俗学者の常光徹は、生徒から聞き取った話を『学校の怪談』として刊行しました。翌年にはポプラ社から同名の児童書シリーズが始まり、学校で語られていた短い噂が図書室の本として全国の子どもへ届きます。
1994年からは『花子さんがきた!!』の児童書とアニメが展開され、1995年には実写映画『トイレの花子さん』が公開されました。作品ごとに怖い幽霊、困った人を助ける少女、校内の怪異をまとめる案内役など役割が変わります。赤いスカートの少女という現在の印象は、この時期の表紙、漫画、アニメによって広く共有されました。

校舎が変わっても残る呼び出し遊び
古い木造校舎が建て替えられ、和式便器が洋式へ変わると、花子さんの出方も変わりました。便器から手が伸びる話に加え、個室の上から顔が覗く、鏡やスマートフォンに映るといった版が語られます。廃校を使ったお化け屋敷や町の催しにも花子さんが登場しました。
決まった扉を叩き、名前を呼び、返事を待つ。必要な道具がなく、学校のトイレだけで試せるため、呼び出し遊びは今も続いています。何も起きなかったときに水が流れた、風で扉が動いたという小さな出来事も、その学校だけの花子さんの話になります。




