捨てた人形が電話をかけてくる
少女が長く大切にしていた人形の名はメリー。引っ越しの荷物を減らすため、少女は人形をごみ捨て場へ置いていった。新居へ着いた夜、知らない相手から電話がかかってくる。受話器の声は、さっき捨てたはずのメリーを名乗った。
一度目の電話ではごみ捨て場にいたメリーが、次の電話では近くの駅や商店街にいる。やがて家の前まで来たと告げられ、少女は玄関と窓を確かめた。しかし、人形は見つからない。いたずらだと思って受話器を戻した直後、最後のベルが鳴った。『あたしメリーさん。今、あなたの後ろにいるの』

語りの移り変わり
- 固定電話の普及期家庭の電話と町角の公衆電話を使い、捨てた人形が現在地を告げながら近づく話が語られる。
- 1990年代都市伝説や学校怪談を集めた児童書、漫画、テレビ番組で広く紹介される。
- 2000年代以降携帯電話の非通知着信、着信履歴、位置情報などを取り入れた版が生まれる。
- 2019年日本バーチャルリアリティ学会大会で、メリーさんの電話を題材にした体験型企画が発表される。
電話のたびに町を一つずつ進む
大阪大学の研究グループが2019年に発表したVR企画の論文には、ごみ捨て場、たばこ屋の角、少女の家の前という順路が収録されている。玄関を開けても誰もおらず、その後の電話で初めて背後にいると告げられる。
途中の目印は土地によって変わる。駅前の公衆電話、コンビニ、交差点、マンションの一階。電話が一晩のうちに続く版もあれば、数日かけて近づく版もある。学校で話す子どもたちは、たばこ屋を近所の店に変え、自分たちの帰り道をメリーに歩かせた。

受話器を取るまで相手の姿は見えない
この話が広まったころ、家庭の電話は玄関や居間に置かれ、受話器を取るまで相手の番号が分からないものも多かった。声は聞こえても、メリーがどの電話を使い、どうやって移動しているのかは見えない。家族が同じ部屋にいても、その声を聞くのは受話器を持った一人だけだった。
公衆電話を使う版では、メリーは町角の電話ボックスを順番に移る。少女が電話線を抜いたのに、切れたはずの電話がまた鳴る話もある。人形は最後の一言まで姿を見せず、大きさや顔立ちを説明しないまま終わる版も多い。

結末の後に続きが加わる
『今、あなたの後ろにいるの』で終わる版では、少女が振り向いたかどうかも分からない。別の版では、捨てた人形が刃物を持って立ち、少女を刺すところまで続く。振り向かずに謝り、人形を拾い直すと助かるという結末もある。
人形を捨てたのが少女ではなく家族だった、旅行先へ置き忘れた、リサイクル店へ売ったという始まりも作られた。短く話す時は、ごみ捨て場、家の前、背後という三度の電話だけで終わる。

携帯電話の時代のメリーさん
携帯電話が広まると、メリーの着信は家の固定電話から持ち主の端末へ移った。番号非通知でかかる。着信履歴には残らない。電源を切ったはずの端末が鳴る。位置情報アプリの地図に人形の印が現れ、自宅へ近づく版もある。
町角のたばこ屋や公衆電話を知らない世代は、駅の改札やコンビニを目印にする。遠くにいるはずのメリーが着信のたびに近づき、玄関を越え、最後は背中側から声をかける。その順番は固定電話が消えた後も変わっていない。




