雨の日に子どもを引きずる女
ひきこさんは、長い髪とぼろぼろの服で雨の道に現れます。顔には大きな傷があり、子どもを見つけると腕や足をつかみ、逃げられない速さで地面を引きずります。学校の校門を何周もする、家まで追ってくる、犠牲者を空き家へ連れ込むなど、行き先は版によって違います。
最初に姿ではなく、濡れた路面を何かがこする音を聞く話もあります。傘で視界が狭くなり、雨音で足音も聞こえません。路地の先から女が近づき、引きずられている物が人間だと分かった時には、逃げ道がなくなっています。

語りの移り変わり
- 1990年代末から2000年代雨の日に子どもを引きずる女の噂が、学校や怪談サイトで知られるようになる。
- 2008年都市伝説を題材にした映像作品『ひきこさん』が公開される。
- 2018年『ネットで見つけた怖い話超百科』に「ひきこもりのひきこさん」が収録される。
- 現在生前の名や助かる条件の異なる版が、書籍・動画・ゲームで流通する。
森妃姫子という少女の話
広く流布した由来では、女の生前の名を森妃姫子とします。妃姫子は学校で激しいいじめを受け、家へ帰っても両親から暴力を受けていました。顔の傷や曲がった体は、その時に負ったものだと語られます。やがて亡くなった少女が、自分をいじめた子どもに似た者を探して雨の日に現れるようになりました。
別の版では、生前の名前を引子、ひき子と書きます。本人が学校にこもっていた、引きこもりだったため「ひきこさん」と呼ばれたという説明もあります。名前から先に過去を作った再話が混じるため、妃姫子を実在した被害者の名として確定できる資料は見つかっていません。

鏡を見せると逃げる
ひきこさんから助かる方法として、鏡を向ける話があります。女は鏡に映った自分の顔を見ると、悲鳴を上げて逃げるというものです。反対に、鏡を見ると怒り、持っている子どもを置いて新しい相手を追う版もありました。
いじめに加わらなかった子には手を出さない、白い物を持っていれば近づかない、雨がやめば消える。学校で語られるうちに、危険な条件と助かる条件が増えました。いずれも地域共通の決まりではなく、同じ名前の話でも結果が逆になることがあります。

似た女怪と混ざっていく
下校中の子どもを追うところは口裂け女に、路上をこする音はテケテケに似ています。両腕で地面を這う姿、足のない姿、マスクで口元を隠す姿が加わると、話の途中までどの怪異か分からないこともあります。
カシマさんと同じ質問をする版や、学校のトイレで呼び出す版も作られました。一方、ひきこさんだけに残りやすいのは、雨の路上で別の子どもを引きずっている姿です。追われる前に被害者を見せることで、次に何をされるかが分かります。

書籍と映像で生前の話が長くなる
2000年代以降、ひきこさんは児童向けの都市伝説集やネット怪談の本へ収録されました。短い目撃談に、学校でのいじめ、家族との暮らし、死後に現れるまでの経緯が足され、一人の少女の物語として読める版が増えます。国立国会図書館の書誌では、2018年刊行の『ネットで見つけた怖い話超百科』にも「ひきこもりのひきこさん」が収録されています。
2008年には映像作品『ひきこさん』が作られ、その後も題名にひきこさんを掲げた作品が続きました。映像ごとに本名や死因、外見は作り直されています。書籍や映画で付いた設定を、1990年代から全国で同じように語られていた事実として戻すことはできません。




