夢の中で会う見知らぬ男
男の顔は、左右の太い眉がほとんどつながり、額が広く、口元にはわずかな笑みがある。サイトへ寄せられたという証言では、彼は夢の中で助言をすることもあれば、ただ遠くから見ていることもある。父親や教師として現れる、追いかけてくる、恋人になる、北へ行けと命じる。共通するのは顔だけで、声や性格は一致しない。
似顔絵の下には『EVER DREAM THIS MAN?』という問いとサイトのアドレスが印刷された。街角へ貼られたビラや画像を見た人は、どこかで会った気がすると書き込み、自分の夢の記憶を探した。サイトは、二千人以上が夢で見たという数字や、男の正体を説明するいくつもの仮説も掲載した。

語りの移り変わり
- 2006年1月(サイト上の設定)患者が夢に現れる男の似顔絵を精神科医へ渡す。
- 2009年9月thisman.orgが開設され、似顔絵と目撃募集が広まる。
- 2009年秋運営者とゲリラ・マーケティング事業のつながりが指摘される。
- 2010年Andrea Natellaが設定を作った企画だと明かす。
二〇〇九年に作られた顔
thisman.orgは二〇〇九年九月、イタリアのAndrea Natellaによって開設された。彼は広告とアート企画を手掛ける人物で、サイトの所有情報をたどると、彼のゲリラ・マーケティング事業と同じ管理先へ行き着いた。ニューヨークの精神科医、最初の女性患者、同僚医師へ送られた記録はいずれも示されていない。
Natellaは二〇一〇年、自分が話を作ったことを明かした。似顔絵は実在する夢の目撃者から描いたものではなく、顔を組み立てる画像作成ソフトを使い、若いころの父親の写真を参考にしたという。多数の人が同じ男を夢で見たという中心の設定も、この企画のために用意された。

正体が分かった後も残ったビラ
公開直後から、企画中のホラー映画を宣伝する仕掛けではないかと疑われた。映画会社Ghost House Picturesが権利を取得し、『This Man』という作品を計画した時期もあるが、映画は完成しなかった。商業映画の宣伝が最初の目的だったかどうかは、資料によって説明が分かれる。
作り話だと判明した後も、似顔絵はSNSや掲示板で再利用された。自分も見たという体験談、別人の顔へ差し替えたビラ、漫画や映像作品が続く。顔を先に見せてから夢にいなかったかと問う仕組みなので、噂を知った夜に初めてその男が夢へ出てくることもある。






