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奇怪千万現代怪異資料館This Man
FILE 99 / 夢・共有される顔

This Man

でぃすまん

世界中の知らない人が、同じ太い眉の男を夢で見たという広告怪談

二〇〇六年一月、ニューヨークの精神科医を訪ねた女性が、何度も夢に現れる男の顔を描いた。診察室の机に置かれた絵を、別の患者も知っていると言い出す。医師が同僚へ送ると、さらに四人が同じ顔を認めた。やがて世界中から目撃報告が集まり始める――というのが、This Manを紹介したウェブサイトの発端だった。

精神科の診察室で、患者が夢に出る太い眉の男の似顔絵を医師へ渡す場面
精神科の診察室で、患者が夢に出る太い眉の男の似顔絵を医師へ渡す場面

夢の中で会う見知らぬ男

男の顔は、左右の太い眉がほとんどつながり、額が広く、口元にはわずかな笑みがある。サイトへ寄せられたという証言では、彼は夢の中で助言をすることもあれば、ただ遠くから見ていることもある。父親や教師として現れる、追いかけてくる、恋人になる、北へ行けと命じる。共通するのは顔だけで、声や性格は一致しない。

似顔絵の下には『EVER DREAM THIS MAN?』という問いとサイトのアドレスが印刷された。街角へ貼られたビラや画像を見た人は、どこかで会った気がすると書き込み、自分の夢の記憶を探した。サイトは、二千人以上が夢で見たという数字や、男の正体を説明するいくつもの仮説も掲載した。

次の患者が机上の似顔絵を見て、同じ男を知っていると驚く場面
次の患者が机上の似顔絵を見て、同じ男を知っていると驚く場面

語りの移り変わり

  1. 2006年1月(サイト上の設定)患者が夢に現れる男の似顔絵を精神科医へ渡す。
  2. 2009年9月thisman.orgが開設され、似顔絵と目撃募集が広まる。
  3. 2009年秋運営者とゲリラ・マーケティング事業のつながりが指摘される。
  4. 2010年Andrea Natellaが設定を作った企画だと明かす。

二〇〇九年に作られた顔

thisman.orgは二〇〇九年九月、イタリアのAndrea Natellaによって開設された。彼は広告とアート企画を手掛ける人物で、サイトの所有情報をたどると、彼のゲリラ・マーケティング事業と同じ管理先へ行き着いた。ニューヨークの精神科医、最初の女性患者、同僚医師へ送られた記録はいずれも示されていない。

Natellaは二〇一〇年、自分が話を作ったことを明かした。似顔絵は実在する夢の目撃者から描いたものではなく、顔を組み立てる画像作成ソフトを使い、若いころの父親の写真を参考にしたという。多数の人が同じ男を夢で見たという中心の設定も、この企画のために用意された。

夜の夢の中でThis Manが無人の駅ホームに立ち、眠る人物を見つめる場面
夜の夢の中でThis Manが無人の駅ホームに立ち、眠る人物を見つめる場面

正体が分かった後も残ったビラ

公開直後から、企画中のホラー映画を宣伝する仕掛けではないかと疑われた。映画会社Ghost House Picturesが権利を取得し、『This Man』という作品を計画した時期もあるが、映画は完成しなかった。商業映画の宣伝が最初の目的だったかどうかは、資料によって説明が分かれる。

作り話だと判明した後も、似顔絵はSNSや掲示板で再利用された。自分も見たという体験談、別人の顔へ差し替えたビラ、漫画や映像作品が続く。顔を先に見せてから夢にいなかったかと問う仕組みなので、噂を知った夜に初めてその男が夢へ出てくることもある。

世界各地の街角へ同じ男のポスターが貼られ、通行人が足を止める場面
世界各地の街角へ同じ男のポスターが貼られ、通行人が足を止める場面
複数の知らない人々が別々の寝室で眠り、夢の同じ顔がこちらを見る場面
複数の知らない人々が別々の寝室で眠り、夢の同じ顔がこちらを見る場面
暗い広告事務所で制作者が似顔絵を画面へ配置し、背後の窓に同じ男が映る場面
暗い広告事務所で制作者が似顔絵を画面へ配置し、背後の窓に同じ男が映る場面
SOURCES

主な参考資料