橋の下から聞こえるショキショキ
長野県では、夜に土橋を渡ると、下の淵からさらさらと小豆を洗う音がすると語られた。山梨県では日暮れの川からザックンザックンと音がする。岡山県では屋敷のそばの大井戸、福島県では沢、大分県では池や井濠に現れる。水のある暗い場所なら、土地を問わず小豆洗いの場になった。
水が小石を転がす音、鼬が口を鳴らす音、蛙や鳥の声など、正体についても土地ごとに説明がある。何の音か分からなくても、小豆をざるに入れて洗った経験があれば、似ている音をすぐ思い浮かべられた。

語りの移り変わり
- 近世以前川や井戸で豆を洗う音がする怪異が各地で語られる。
- 江戸時代小豆洗いが老人や小鬼の姿で妖怪画へ描かれる。
- 20世紀民俗学者が東北から九州までの小豆洗い・小豆研ぎを採集する。
- 現在水辺の音をめぐる代表的な妖怪として広く知られる。
小豆研ごうか、人取って食おうか
小豆洗いは作業音だけでなく、歌を口ずさむこともある。「小豆研ごうか、人取って食おうか、ショキショキ」。声を聞いても近づいてはならない。川岸へ寄った者を水へ落とし、食べてしまうと脅す土地がある。
神奈川県の恩田川と梅田川が合流する淵では、女が小豆を洗っている時にかんざしを落とし、拾おうとして河童に引き込まれた。その後も小豆を洗う音が聞こえたという。徳島では元旦の若水を汲むのが遅いと、女の小豆洗いに会うとされた。音の主は、土地の水難譚に合わせて変わる。

姿を持たない水辺の妖怪
江戸時代の妖怪画では、小豆洗いはざるを抱えた小柄な老人として描かれることが多い。後世の漫画やアニメもこの姿を引き継いだ。しかし民間伝承の中心にあるのは、目撃した姿ではなく、暗い水辺から聞こえる反復音である。
音を追って川へ近づけば、夜露で滑る石や急な淵が待っている。姿が見えないため、どこまで近づいても確かめられない。橋の上で足を止めた者に、川下から同じ音が返ってくるだけである。






