夕暮れに飛ぶ白い布
一反は、反物一枚分を数える単位である。長さは時代や品によって違うが、木綿ならおよそ十メートル前後になる。そんな長い白布に似たものが、鹿児島県肝属郡の夕空をひらひらと飛び、人を襲うと伝えられた。
昭和十三年(一九三八)発行の民俗学誌『旅と伝説』には、鹿児島県肝属郡の妖怪として、一反木綿の形をしたものが夕方に飛んで人を襲うという記録が載る。短い記事であり、顔つきや会話、仲間を背に乗せるといった細部は書かれていない。

語りの移り変わり
- 伝承期鹿児島県肝属郡で、夕方に白い布状のものが飛んで人を襲うと語られる。
- 1938年民俗学誌『旅と伝説』に一反木綿の短い採集記録が掲載される。
- 20世紀後半水木しげるの妖怪画と漫画によって、顔のある一反木綿が全国へ広まる。
- 現在鹿児島ゆかりの妖怪として観光や展覧会でも紹介される。
首や顔へ巻きつく
後に紹介された話では、一反木綿は夜道の人の首へ巻きつき、息を止めようとする。顔を覆って前を見えなくするともいう。布なので刃物で切れるように思えるが、斬りつけると消え、手に血が残ったという再話もある。
ただし、血が残る話は近年の妖怪図鑑を通じて知られた筋で、昭和初期の採集記録には見当たらない。古くから確認できるのは、肝属郡で夕方に飛び、人を襲う布状の怪異という部分である。

大隅半島から全国へ
肝属郡高山町は、現在の肝付町を中心とする地域に当たる。地元の限られた伝承だった一反木綿は、水木しげるの妖怪画や『ゲゲゲの鬼太郎』で姿を得た。細い目と口を持ち、空を飛んで仲間を運ぶ姿は、この作品群で親しまれたものだ。
恐ろしい首巻きの妖怪から、空を移動する頼もしい仲間へ。全国的な知名度が上がる一方で印象も変わった。現在の肝付町や鹿児島の妖怪紹介では、土地を代表する存在の一つとして取り上げられている。






