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奇怪千万現代怪異資料館バックルームズ
FILE 89 / 異空間・無限の空室

バックルームズ

ばっくるーむず

現実の床を踏み抜くと、湿った黄色い部屋が永遠に続く

ゲームの床や壁をキャラクターがすり抜ける現象を「ノークリップ」と呼ぶ。もし現実でも同じことが起きたなら、落ちる先は黄色い部屋の迷宮だ。湿ったカーペットの臭い、均一にうなる蛍光灯、出口のない間仕切り。バックルームの原型は、たった一枚の写真と数行の文章だった。

現実の床を踏み抜いた人物が、湿ったカーペットの黄色い無人室へ落ちる場面
現実の床を踏み抜いた人物が、湿ったカーペットの黄色い無人室へ落ちる場面

現実の外にある黄色い部屋

最初の文章では、不注意により間違った場所で現実をノークリップすると、バックルームへ落ちるとされた。そこには古い湿ったカーペットの臭いが満ち、壁紙はどこまでも同じ黄色。蛍光灯は最大出力でうなり続けている。無作為に区切られた空間の広さは、約六億平方マイルと記された。

姿を見せる怪物の説明はない。ただし、何かが近くをさまよう音を聞いたなら、そちらにも聞かれている、と最後に警告する。見慣れた事務所のようで、目的を持つ部屋が一つもない。角を曲がっても同じ景色しか現れず、現在地も出口も確かめられない。短い本文は、その状態だけを残した。

蛍光灯が唸る同じ色の部屋が角の先まで無限に連なる場面
蛍光灯が唸る同じ色の部屋が角の先まで無限に連なる場面

語りの移り変わり

  1. 2002年オシュコシュの旧家具店で、改装前の黄色い室内が撮影される。
  2. 2003年3月写真がHobbyTown店舗の改装記録サイトへ掲載される。
  3. 2019年5月4chanで写真とノークリップの短文が結び付き、バックルームが生まれる。
  4. 2022年Kane Parsonsの映像シリーズが始まり、見つかった映像形式の設定が広がる。
  5. 2024年ネット上の調査により原写真の場所と掲載元が特定される。

一枚の写真から増えた階層

発端となった写真は、二〇一九年五月十二日に4chanの超常現象板へ投稿された。不安になる画像を集めるスレッドに、黄色い壁の無人室が貼られる。翌日ごろ、別の匿名利用者がノークリップと六億平方マイルの説明を書き添えた。文章と画像はRedditなどへ移り、間もなく「レベル0」と呼ばれるようになる。

参加者は倉庫、配管通路、浸水した部屋、ホテルの廊下といった新しい階層を作り、そこにスマイラーやハウンドなどの存在を住まわせた。脱出方法や物資、探索組織まで設定したWikiも生まれる。一方で、怪物や組織を置かず、誰にも会えない黄色い空間だけを好む版も残った。バックルームには管理者が決めた一本の正史がなく、同じ入口から複数の世界が枝分かれしている。

一人の探索者が柱の陰に消える黒い人型を遠くから見つける場面
一人の探索者が柱の陰に消える黒い人型を遠くから見つける場面

写真が撮られた場所

長く出所不明だった写真は、二〇二四年に米国ウィスコンシン州オシュコシュの建物までたどられた。家具店の跡をHobbyTownの店舗とラジコンコースへ改装する前、二階を撮影した写真の一枚だった。二〇〇二年に撮られ、二〇〇三年三月に店舗の改装記録サイトへ掲載されている。

写真の部屋は異世界でも無限の迷路でもない。間仕切りが外され、壁紙とカーペットだけが残った改装途中の商業施設である。用途を失った室内の一瞬が匿名掲示板へ渡り、二〇一九年の短文と結び付いた。その後、Kane Parsonsが二〇二二年から公開した映像シリーズは、古いビデオカメラで迷宮を記録したような画面を作り、バックルームを知らなかった層にも広めた。

蛍光灯の切れた暗い区画の手前で、探索者が足を止める場面
蛍光灯の切れた暗い区画の手前で、探索者が足を止める場面
濡れた足跡だけが黄色い廊下を曲がり、誰の姿も見えない場面
濡れた足跡だけが黄色い廊下を曲がり、誰の姿も見えない場面
出口と思った扉を開けると、さらに広い同じ黄色の空室が続く場面
出口と思った扉を開けると、さらに広い同じ黄色の空室が続く場面
SOURCES

主な参考資料