現実の外にある黄色い部屋
最初の文章では、不注意により間違った場所で現実をノークリップすると、バックルームへ落ちるとされた。そこには古い湿ったカーペットの臭いが満ち、壁紙はどこまでも同じ黄色。蛍光灯は最大出力でうなり続けている。無作為に区切られた空間の広さは、約六億平方マイルと記された。
姿を見せる怪物の説明はない。ただし、何かが近くをさまよう音を聞いたなら、そちらにも聞かれている、と最後に警告する。見慣れた事務所のようで、目的を持つ部屋が一つもない。角を曲がっても同じ景色しか現れず、現在地も出口も確かめられない。短い本文は、その状態だけを残した。

語りの移り変わり
- 2002年オシュコシュの旧家具店で、改装前の黄色い室内が撮影される。
- 2003年3月写真がHobbyTown店舗の改装記録サイトへ掲載される。
- 2019年5月4chanで写真とノークリップの短文が結び付き、バックルームが生まれる。
- 2022年Kane Parsonsの映像シリーズが始まり、見つかった映像形式の設定が広がる。
- 2024年ネット上の調査により原写真の場所と掲載元が特定される。
一枚の写真から増えた階層
発端となった写真は、二〇一九年五月十二日に4chanの超常現象板へ投稿された。不安になる画像を集めるスレッドに、黄色い壁の無人室が貼られる。翌日ごろ、別の匿名利用者がノークリップと六億平方マイルの説明を書き添えた。文章と画像はRedditなどへ移り、間もなく「レベル0」と呼ばれるようになる。
参加者は倉庫、配管通路、浸水した部屋、ホテルの廊下といった新しい階層を作り、そこにスマイラーやハウンドなどの存在を住まわせた。脱出方法や物資、探索組織まで設定したWikiも生まれる。一方で、怪物や組織を置かず、誰にも会えない黄色い空間だけを好む版も残った。バックルームには管理者が決めた一本の正史がなく、同じ入口から複数の世界が枝分かれしている。

写真が撮られた場所
長く出所不明だった写真は、二〇二四年に米国ウィスコンシン州オシュコシュの建物までたどられた。家具店の跡をHobbyTownの店舗とラジコンコースへ改装する前、二階を撮影した写真の一枚だった。二〇〇二年に撮られ、二〇〇三年三月に店舗の改装記録サイトへ掲載されている。
写真の部屋は異世界でも無限の迷路でもない。間仕切りが外され、壁紙とカーペットだけが残った改装途中の商業施設である。用途を失った室内の一瞬が匿名掲示板へ渡り、二〇一九年の短文と結び付いた。その後、Kane Parsonsが二〇二二年から公開した映像シリーズは、古いビデオカメラで迷宮を記録したような画面を作り、バックルームを知らなかった層にも広めた。






