車の屋根をこする靴
暗い道で少女はヘッドライトを消さず、少年の帰りを待つ。風が吹くたび、屋根の上で何かが引きずられる。外を見ても窓には自分の顔しか映らない。足音が近づいた気がしても、鍵を開けない。
朝、警官が車を見つけ、少女へゆっくり出るよう指示する。『車の方を振り返るな』と言われるほど、少女は後ろを見たくなる。木の枝から少年の遺体が逆さに吊られ、揺れる靴先が車の屋根へ触れていた。音は犯人の爪ではなく、恋人の体が一晩立て続けていた。

語りの移り変わり
- 20世紀中頃町外れの車、脱走犯、離ればなれになる恋人を組み合わせた話が米国で広がる。
- 1960~70年代民俗学の採話に、屋根を擦る靴や警官の警告を含む異版が記録される。
- 1980年代都市伝説集とキャンプの怪談で、フック男と並ぶ定番になる。
- 現在場所と連絡手段を変えながら、短編動画や朗読で再話される。
髪を引かれて動けない車
異版では、少女が待ちきれずエンジンをかけるが、車が進まない。誰かが後ろから引いていると思い、さらにアクセルを踏む。朝になって警察が来ると、少年は車の後ろへ縄で結ばれ、少女が発進するたび首を締められていたと分かる。
少年の靴ではなく、指先や爪が屋根を擦っていたという版もある。犯人が遺体を揺らし、わざと音を立てていたと説明されることもある。音の間隔と少女の想像を長く引き延ばせるため、語り手は最後の一場面まで死体を見せない。

恋人たちの駐車場所にいる殺人犯
この話は『The Boyfriend's Death』『Hairy Toe』などの題で採録され、フック男の異版と重なる。どちらも若い男女が町外れに車を停め、ラジオで脱走犯を知る。一方はドアに鉤を残し、もう一方は少年の遺体を屋根へ残す。
車を持つ若者が親の目を離れられるようになった1950~60年代の米国で、恋人たちの駐車場所は怪談の定番になった。故障、ガス欠、殺人犯のニュースを加えれば、二人を簡単に分けられる。少女が一人で待つ時間が話の中心になる。

『見るな』と言われて振り返る
警官は少女を守るため、後ろを見るなと命じる。聞き手はすでに、車の上に何かあると知っている。少女が指示に従えば正体は分からないままだが、多くの版で彼女は振り返る。
現在の再話では、携帯電話が圏外になる、位置情報が途切れるなどの理由が加わる。けれど夜の音と朝の死体は変わらない。少年がいつ殺されたかは見えず、少女は数十センチ上に恋人がいると知らずに夜を過ごす。





