カノバナスの夜回り
被害が続いたカノバナスでは、町長ホセ・ソトが住民を集め、銃や網を持って山へ入った。テレビカメラも同行し、捜索は島外のニュースになった。怪物は見つからなかったが、鶏小屋や山羊小屋の死体が映るたび、新しい目撃者が名乗り出た。
マデリン・トレンティーノは、自宅近くで高さ一メートルほどの生き物を見たと証言した。灰色がかった皮膚、大きな黒い目、細い手足、背中の棘。跳ねるように移動し、強い臭いを残したという。この姿が新聞の挿絵やテレビの再現へ使われ、初期のチュパカブラ像になった。

語りの移り変わり
- 1995年3月プエルトリコのオロコビスで羊八頭が死に、胸の穴と失血が報じられる。
- 1995年夏カノバナスで家畜被害と目撃が続き、チュパカブラスの名がラジオとテレビで広がる。
- 1990年代後半カリブ海諸国、メキシコ、南米、米国から同名の被害報告が届く。
- 2000年代米国南部で毛のない犬型が撮影され、疥癬のコヨーテと判明する例が続く。
島から南北アメリカへ
同じ1995年のうちに、ドミニカ共和国、メキシコ、米国南部から家畜被害が報じられた。名称は複数形のチュパカブラス、単数形として扱われるチュパカブラの両方が使われる。被害動物は山羊だけでなく、羊、鶏、牛、犬へ増えた。
2000年代にテキサスで撮影されたものは、プエルトリコの二足歩行型とは違い、毛のない犬やコヨーテに見えた。捕獲された死骸をDNA検査すると、疥癬で毛を失ったコヨーテや犬だった例がある。それ以後、背中に棘のある怪物と青灰色の犬型が、同じ名前で呼ばれるようになった。

血が消えたという話
家畜の体に穴があり、周りに血が少ないと、血を吸われたように見える。死後は血液が体の低い側へ沈み、外へ流れ出ないこともある。チュパカブラ被害として調べられた死体には、犬などに首を咬まれた痕や、死後に昆虫が食べた穴が見つかった。
『一滴も血が残っていない』と確かめるには、獣医による解剖と血液量の記録が必要になる。1995年の代表的な死体で、その条件を満たす報告は公表されていない。被害が実在しても、穴の数や血の量だけで未知の吸血動物を決めることはできなかった。

公開直後の怪物映画
調査者ベンジャミン・ラドフォードは、初期証言をたどり、トレンティーノが1995年公開の映画『スピーシーズ/種の起源』を見ていたことを確認した。映画の異星生物シルは、大きな目、細い手足、背中の突起を持ち、トレンティーノ自身もチュパカブラに似ていると語った。映画が証言のすべてを作ったとは断定できないが、よく知られた挿絵との近さは大きい。
プエルトリコには米軍施設や実験への不信もあり、怪物を秘密研究から逃げた生物とする噂が加わった。家畜の死、映画の映像、行政への疑い、テレビの連日報道が同じ夏に重なり、名のなかった襲撃者は数か月で大陸を渡った。





