現代怪異資料館MODERN KAIKI ARCHIVE
奇怪千万現代怪異資料館ゴートマン
FILE 56 / 米国・山羊頭の怪人

ゴートマン

ごーとまん

線路と恋人たちの車へ近づく斧持つ半獣

メリーランド州プリンスジョージズ郡のフレッチャータウン・ロードでは、夜になると山羊の頭をした男が現れるという。二本足で歩き、斧を振り回し、車や若者を追う。近くには米農務省のベルツビル農業研究センターがあり、実験に失敗した科学者が山羊人間になったという説明まで付いた。だが古い採録を開くと、住む場所も生まれ方も一つではない。

夜のメリーランドの森で、山羊頭と人の胴を持つゴートマンが線路脇に立つ場面
夜のメリーランドの森で、山羊頭と人の胴を持つゴートマンが線路脇に立つ場面

犬が死んだフレッチャータウン・ロード

1971年、プリンスジョージズ郡で一匹の犬が死んで見つかった。飼い主たちは、近くで山羊に似た毛深い生き物を見たと地方紙に話した。数週間後、記者カレン・ホスラーがメリーランド大学の民俗資料を調べ、『ゴートマン』の噂と事件を結びつけて報じた。記事はフレッチャータウン・ロード周辺を怪人の居場所として紹介した。

若者たちは夜の道路へ車で出かけ、森から石や斧を投げられた、ヘッドライトの前を二本足の獣が横切ったと話した。犬の事件と目撃に同じ犯人を認める証拠はなかったが、地方紙に地名が載ったことで、探しに行ける怪談になった。

停車中の若者の車へ斧を持つゴートマンが暗い森から近づく場面
停車中の若者の車へ斧を持つゴートマンが暗い森から近づく場面

語りの移り変わり

  1. 1960年代メリーランド大学の学生が、橋や森に住む半獣の話を州内で採録する。
  2. 1971年プリンスジョージズ郡の地方紙が犬の死とゴートマンの噂を報じる。
  3. 1970~80年代橋を守る男、事故被害者、研究所の実験体などの異版が学生資料に集まる。
  4. 2000年代以降ネット記事や動画でフレッチャータウン・ロードと農業研究センターの版が定番になる。

橋を守る男、研究所から逃げた怪物

大学の採話には、ゴートマンがタッカー・ロードの狭い橋を守り、近づいた子どもを撃つという版がある。別の語りでは、交通事故で額がつぶれ、角のように盛り上がった男が森へ隠れた。小屋を焼かれたため若者を憎んでいる、と理由まで添えられた。

現在よく知られるのは、ベルツビル農業研究センターの科学者が実験中に山羊と融合したという話だ。研究所は実在するが、人と山羊を混ぜる実験や脱走記録はない。研究施設の長い柵や立入制限区域が、森の怪人にもっともらしい出身地を与えた。

怪物の斧が車のボンネットへ振り下ろされ、乗員が発進しようとする非流血の場面
怪物の斧が車のボンネットへ振り下ろされ、乗員が発進しようとする非流血の場面

学生が残した手書きの怪談

メリーランド大学図書館には、授業で学生が集めた民俗資料が141リニアフィート保管されている。1960年代から80年代のタイプ原稿には、聞いた相手、場所、年代が記され、ゴートマンとバニーマンの話も多数含まれる。同じ名の怪物が郡をまたぎ、道路や橋を変えながら語られていたことが分かる。

採録者が聞いたのは、完成した一つの物語ではない。斧を持つ半獣、散弾銃を持つ傷ついた男、恋人たちを襲う隠者が、同じゴートマンの箱に入っている。後年の紹介はそれらをつなぎ、研究所生まれの山羊人間を作り上げた。

農業研究施設の柵を半獣の影が乗り越える研究所事故説の伝説場面
農業研究施設の柵を半獣の影が乗り越える研究所事故説の伝説場面

夜の橋へ向かう車

ゴートマンの橋と呼ばれる場所は一つではない。プリンスジョージズ郡のタッカー・ロード、アン・アランデル郡のガバナー・ブリッジ・ロードなど、古い一車線橋へ話が移っている。車を停め、クラクションを鳴らすと怪人が来るという遊びもできた。

道路改修で橋が架け替えられても、若者は別の暗い場所を選ぶ。斧を持つ姿は映画の殺人鬼に近づき、山羊の脚や角は絵や動画で大きくなった。1971年の記事にいた毛深い生き物は、半世紀の再話を経て、研究所から逃げた怪物として森を歩いている。

古い橋の中央で山羊の脚を持つ怪人が欄干の上に現れる場面
古い橋の中央で山羊の脚を持つ怪人が欄干の上に現れる場面
夜の線路で遠い列車灯を背に、ゴートマンが人を森へ誘うように手を伸ばす場面
夜の線路で遠い列車灯を背に、ゴートマンが人を森へ誘うように手を伸ばす場面
SOURCES

主な参考資料