ぬいぐるみと交代する鬼
最初に鬼になるのは実行者である。名前を付けたぬいぐるみを浴室へ置き、家の中に隠れる。やがて役目を交代すると、今度はぬいぐるみが鬼になり、隠れた人を探しに来る――というのが大まかな筋だ。通常なら友人や家族と行う遊びを、動かない玩具と一対一で行うところに不気味さがある。
ぬいぐるみの中へ米や自分の爪を入れる、赤い糸で縫う、刃物を使うなど、身体の一部と見立てられる材料が組み込まれた。投稿が転載されるたびに開始時刻、言葉、終わらせ方が細かくなり、後から加わった手順まで初めから決まっていた規則のように扱われた。

語りの移り変わり
- 2007年4月2ちゃんねるのオカルト板で方法と実行経過が投稿され、別の利用者も実況を始める。
- 2007年以降まとめサイト、ニコニコ動画、YouTubeで実行記録が増え、手順の細部が変化する。
- 2009年小説『ひとりかくれんぼ 真夜中の鬼ごっこ』が竹書房から刊行される。
- 2021年オンライン上の体験談を扱う研究論文で、投稿者と閲覧者の関係が分析される。
掲示板の全員が家の中を見張る
実行者は押し入れなどに隠れ、携帯電話から掲示板へ書き込む。テレビの音が変わった、廊下で物音がした、置いたはずのぬいぐるみが見当たらない。短い報告が届くたび、閲覧者は状況を尋ね、写真を求め、早く終わらせるよう促した。
その場にいるのは実行者一人でも、画面の向こうには大勢がいる。何気ない家鳴りやテレビのノイズは、実況の流れの中で怪異の兆候に変わる。後からまとめを読む人も、投稿時刻と返信を追うことで、深夜の家を一緒に見張っていたような感覚を味わえた。

2007年4月から始まった流行
現在確認しやすい初期の書き込みは2007年4月に集中している。表記は「一人隠れんぼ」「一人かくれんぼ」「ひとり鬼ごっこ」など一定せず、複数の利用者が同じ遊びを試した。やがて全てひらがなの「ひとりかくれんぼ」が広く使われるようになる。
古い村祭りや寺社の秘儀から受け継がれたという記録は見つかっていない。掲示板へ詳しい方法が書かれ、その場で他の利用者が実行し、体験談を重ねた過程を追えるため、2000年代のインターネット上で形を整えた怪談と考えるのが自然である。

動画に映る、何も起きない時間
流行はほどなくニコニコ動画やYouTubeへ移った。暗い廊下、砂嵐のテレビ、浴室の水面をカメラが長く映し続ける。大きな怪物が姿を現さなくても、視聴者は画面の隅や音声の変化を探し、コメントで見つけたものを共有した。
國學院大學の研究は、実況者だけが現場で行動し、閲覧者が助言や解釈を返す形式に注目している。ひとりかくれんぼでは、出来上がった話を読むだけでなく、進行中の出来事に加わること自体が楽しみになった。その形式は、後のきさらぎ駅再実況や配信型の怪談にも受け継がれた。

書籍と映像になった一人遊び
2009年には竹書房から小説『ひとりかくれんぼ 真夜中の鬼ごっこ』が刊行された。掲示板の短い実況だけでは描けない人物関係や事件を加え、長編の物語へ作り替えた作品である。映画や携帯向け作品も続き、名前はネットを離れて定着した。
研究対象にもなり、2021年には伊藤慈晃が、オンライン上の宗教的体験談で投稿者がどのように読者を引き込むかを、ひとりかくれんぼを例に論じている。発生から十数年を経ても新しい実行動画が投稿されるのは、結末の決まった昔話ではなく、誰かがその夜の続きを書ける形式だからである。




