同じ町から人だけが消える
体験談の舞台は、住宅街、公園、学校、海辺など、投稿者がよく知る場所である。道順も建物も変わらない。ただ、人がいない。自動車も通らず、鳥や虫の声まで消えたという話もある。遠くの異世界へ運ばれるのではなく、いつもの町が一枚ずれたように無人になる。
戻ろうとして歩き回るうち、投稿者は中年の男に出会う。背広姿の場合もあれば、工事現場の作業員や警備員のような服を着ている場合もある。顔立ちは思い出せないのに、服装や怒鳴り声だけは鮮明だったとする話が多い。

語りの移り変わり
- 2005年頃2ちゃんねるの怪談スレッドで、無人の空間と謎の男をめぐる体験談が現れる。
- 2006年類似体験を挙げる書き込みが続き、『時空のおっさん』の型がまとまっていく。
- 2017年以降小説『裏世界ピクニック』など、ネット怪談を採り入れた創作へ登場する。
- 2025年音声番組『世界はたまにバグってる』が初回テーマとして体験談を募集する。
『なぜここにいる』と怒る男
男は親切に事情を説明してくれない。電話口で「なぜそこにいる」と問い詰めたり、姿を見せるなり早口で叱ったりする。投稿者が答えられずにいると、男は携帯電話や小型の機械のような物を操作し、誰かと連絡を取る。
次の瞬間、周囲の音が戻る。学校なら廊下に生徒が行き交い、町なら車が走っている。長い時間を過ごしたはずなのに、時計はほとんど進んでいなかったり、反対に数時間が抜け落ちていたりする。男が迎えに来るのではなく、迷い込んだ者を持ち場から追い返すように動くのが、この怪異の癖である。

一人ではない『時空のおっさん』
保存されたまとめでは、2005年頃から「時の番人」「時空のずれ」と呼ばれる話がオカルト板に現れ、2006年には似た経験を持つ投稿者同士のやり取りが続いている。年齢も服装も違うため、初めから同じ男が連続出演していたわけではない。
それでも、無人の場所、怒る男、手元の機械、突然の帰還という部品が重なった。読者が過去の話を引き合いに出し、新しい投稿を同じ系列へ加えるうち、複数の男は『時空のおっさん』という一つの役名を与えられた。女性や若い男が現れる異型もある。

怖がらせる怪物ではなく、現場の管理人
口裂け女のように追いかけてくるわけでも、呪物のように家へ災いを持ち帰るわけでもない。時空のおっさんが腹を立てるのは、投稿者が「そこにいてはいけない場所」へ入り込んだからだ。事情を聞かずに追い出す態度は、工事現場や立入禁止区域の管理人によく似ている。
この役回りが定着すると、体験談には端末、通信相手、複数の管理人といった細部が加わった。インターネットで別々の投稿を読み比べられるからこそ、姿の違う男たちが同じ仕事をする存在としてまとまっていった。

小説と音声番組へ移った怪異
宮澤伊織の小説『裏世界ピクニック』では、時空のおっさんが異常な空間に現れる存在として採り入れられた。元の投稿群をそのまま再現するのではなく、『裏世界』をめぐる作品独自の怪異へ組み直されている。
2025年にはテレビ東京コミュニケーションズの音声番組が初回テーマに選び、リスナーから似た体験を募った。掲示板で複数の話を寄せ集めて育った怪異が、今度は番組の投稿募集を通じて新しい話を集めている。




