現代怪異資料館MODERN KAIKI ARCHIVE
奇怪千万現代怪異資料館リョウメンスクナ
FILE 21 / ネット・呪物

リョウメンスクナ

りょうめんすくな

古代伝承の名を借りた封印遺物の物語

2005年9月、建築関係の仕事をするという投稿者が、岩手県内の古寺を解体した際の出来事を書き込んだ。本堂の奥に密閉された部屋があり、中から長さ二メートルほどの黒ずんだ木箱が出てくる。箱には釘が打たれ、崩れかけた紙に「大正」「呪法」「両面スクナ」と読める文字が残っていた。翌朝、箱はすでに開けられていた。

古寺の収蔵庫で二つの影を落とす封印された木製の長い厨子を描いたリョウメンスクナ
古寺の収蔵庫で二つの影を落とす封印された木製の長い厨子を描いたリョウメンスクナ

本堂の奥にあった木箱

木箱を見つけた日のうちに、管理業者は寺の元住職へ連絡を取った。元住職は「絶対に開けるな」と念を押し、自分が引き取ると答えた。ところが現場へ戻ると、夜中に忍び込んだアルバイト二人が釘を抜いていた。二人はプレハブの前に座り込み、呼びかけても返事をしなかった。

箱の中には、乾燥した人間のようなものが横たわっていた。頭は左右に二つ、腕は左右二本ずつ。足だけは二本で、四本の腕を胸の前に構えている。作業員たちは奇形の遺体か、精巧な作り物ではないかと考え、警察へ知らせるかどうかを相談した。

寺の収蔵庫で封じた厨子の影が二つの顔と四本の腕に分かれ、古い記録が机上に開かれる場面
寺の収蔵庫で封じた厨子の影が二つの顔と四本の腕に分かれ、古い記録が机上に開かれる場面

語りの移り変わり

  1. 720年完成した『日本書紀』に、飛騨国の異形の人物・宿儺が記される。
  2. 2005年9月21日〜22日岩手の廃寺から異形のミイラが出たという長編が、2ちゃんねるのオカルト板へ投稿される。
  3. 2010年代以降まとめサイト、朗読動画、ゲームなどで物部天獄と呪物の筋が再話される。

元住職が持ち去ったもの

八十歳を越えた元住職は、息子の車で現場へ駆けつけた。開けた者を確かめると、「開けたらしまいじゃ」と怒鳴り、息子には、京都の寺へ送る約束だったはずだと詰め寄った。作業員たちは三十分ほど経を聞かされ、経本のような物で肩や背中を強く叩かれた。

元住職は箱を車へ積み、「リョウメンスクナ様」と呼んだ。その後、箱を開けた一人が亡くなり、もう一人は入院したと投稿者は続ける。解体に関わった者にも事故や病気が相次ぎ、投稿者は木箱の来歴を調べ始めた。

古寺の解体作業員たちが本堂奥の隠し部屋で、棺ほどの黒ずんだ木箱を見つける
古寺の解体作業員たちが本堂奥の隠し部屋で、棺ほどの黒ずんだ木箱を見つける

物部天獄という教祖

話の後半では、大正期に「物部天獄」と名乗った教祖が登場する。教祖は見世物小屋などから身体の異なる人々を集め、閉じ込めた者同士を争わせた末、生き残った二人をつなぎ合わせて即身仏にしたという。掲示板の中で語られる来歴であり、この人物や教団を裏づける同時代史料は示されていない。

教祖は完成したミイラを各地へ運び、最後に自ら命を絶った。箱が置かれた土地では大きな災害が起きたともいう。ただし、投稿には大正期の新聞や教団資料は示されず、物部天獄という人物も同時代の記録から確認されていない。

飛騨の山里にある小堂で案内役と訪問者が柵越しに二面の守護像を見る場面
地域信仰を現代の呪物譚へ直結させず、別の伝承として扱う

古代の両面宿儺とは別の話

両面宿儺の名そのものは、2005年に作られたものではない。『日本書紀』の仁徳天皇六十五年条には、飛騨国に一つの胴へ二つの顔、四本ずつの手足を持つ宿儺がいたと記される。朝廷に従わず、難波根子武振熊に討たれたというのが中央側の記録である。

飛騨では宿儺の姿が大きく変わる。高山市丹生川町の千光寺では開祖として祀られ、農耕を教え、地域を守った人物として伝えられてきた。円空が彫った両面宿儺坐像も残る。廃寺の木箱と物部天獄は、この古い名と異様な身体像を借りて組み立てられた、2005年のネット怪談の登場人物である。

若い作業員二人が木箱を開け、二つの顔と四本の腕を持つ干からびたミイラを目撃する
若い作業員二人が木箱を開け、二つの顔と四本の腕を持つ干からびたミイラを目撃する

2005年9月の連続投稿

保存されたログでは、最初の書き込みは2005年9月21日16時10分。投稿番号452から始まり、質問への返答を挟みながら翌日まで続いた。投稿者はまず解体現場で見た物を書き、元住職の言葉、後から調べた教団の来歴を順に付け加えている。

後年の再録では、物部天獄の教団名や呪物の保管先が補われることがある。原投稿で確認できるのは、岩手の廃寺、二つの頭と四本の腕を持つミイラ、京都へ送るはずだったという元住職の言葉、そして投稿者が聞き集めた大正期の来歴までである。

木箱を開けた後の解体現場で事故が相次ぎ、倒れた足場の奥に両面宿儺のミイラが立って見える
木箱を開けた後の解体現場で事故が相次ぎ、倒れた足場の奥に両面宿儺のミイラが立って見える
SOURCES

主な参考資料