胸へ乗る老婆
体験はたいてい夜、寝床で始まる。意識が戻ったのに腕も脚も動かず、叫ぼうとしても喉から音が出ない。足元から重みが上がってきて、胸へ乗る。老婆の顔を見たという人もいれば、姿は見えず、息づかいと重さだけを感じたという人もいる。
数秒か数分で動けるようになると、部屋には誰もいない。家族を起こしても、悪い夢だと言われる。ところが同じ集落には似た経験をした人がおり、『ハグに乗られたのだ』と教えられる。英語の hag は醜い老婆や魔女を指し、hag-ridden という言い方も残っている。

語りの移り変わり
- 古くからニューファンドランドで、夜中に動けず胸を押される体験がオールド・ハグと呼ばれる。
- 1960~70年代メモリアル大学の学生と研究者が各地の体験談、呼称、対処法を採録する。
- 1982年デイヴィッド・ハフォードが『The Terror That Comes in the Night』を刊行する。
- 現在地域の民俗資料と睡眠医学の両方から、同じ夜の体験が語り継がれる。
寝床を守る方法
ニューファンドランドの採話には、ハグを防ぐ多くの方法が記録されている。聖書を枕の下へ置く。靴を寝台の下に逆向きで並べる。寝る前に扉の前へほうきを立てる。ハグは藁を一本ずつ数えなければならず、夜が明けるまで部屋へ入れないという。
さらに激しい方法では、釘を打った板を胸に載せて眠る。次にハグが乗れば傷を負い、翌朝、近所で同じ傷のある人物を探せる。加害者を実在の知人や魔女と考える話では、相手の名を逆さに呼ぶ、衣服の一部を燃やすといった対抗策も語られた。

民俗学者が集めた夜の話
メモリアル大学ニューファンドランド・ラブラドール民俗言語資料館には、オールド・ハグに関する録音、聞き書き、学生レポートがまとまっている。体験者は漁村から町まで広く、古い世代だけに限られない。資料には、祖父母から対処法を聞いた若者の話も残る。
民俗学者デイヴィッド・ハフォードは1970年代、現地の語りを調べた。彼自身も似た金縛りを経験していたが、ニューファンドランドの伝承を知る前だった。話を知っているから同じ体験を作るだけではなく、体の共通した状態へ土地の名前と姿が与えられる、と研究した。

体より先に目が覚める
レム睡眠中、脳は活発に夢を見る一方、体の大きな筋肉には力が入りにくくなる。夢の動きを実際に行わないための仕組みだ。目覚める順序がずれると、意識と視覚は戻っても体だけが動かない。これが睡眠麻痺である。
呼吸筋の一部も抑えられ、胸が重く感じる。まだ夢の映像が続けば、部屋に人が立つ、何かが上へ乗るという幻覚になる。ニューファンドランドでは、その侵入者が老婆の姿と名を持った。体が動き始めた瞬間、オールド・ハグは寝室から消える。





