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奇怪千万現代怪異資料館ロシア睡眠実験
FILE 85 / ネット怪談・密室実験

ロシア睡眠実験

ろしあすいみんじっけん

眠らせないガスの密室で、五人は十五日目に人間をやめた

一九四〇年代末、ソ連の研究者が密閉室に五人の政治犯を入れた。三十日間眠らずに耐えれば自由にする。その代わり、室内には眠気を抑える実験用ガスが流される。そんな取引から始まる『ロシア睡眠実験』は、二〇一〇年に投稿された創作である。実在の実験記録は見つかっていないが、軍の極秘資料を読んでいるような文章が事実との境目を曖昧にした。

1940年代風の地下研究所で、五人の囚人が厚い観察窓のある密閉室へ入れられる場面
1940年代風の地下研究所で、五人の囚人が厚い観察窓のある密閉室へ入れられる場面

十五日目の密室

部屋には食料、水、簡易ベッド、トイレがあり、外から様子をうかがえる丸窓が付いていた。囚人たちは初めの数日こそ会話を続けたが、五日目を過ぎると互いに話すのをやめる。九日目、一人が何時間も叫び続け、ついには声が出なくなった。ほかの者は本のページを破り、窓を自分たちの排泄物で塗りつぶした。マイクにも声が入らない。研究者が呼びかけると、室内からは、ここから出されたくないという返事が戻った。

十五日目、研究者はガスを止め、兵士に扉を開けさせた。中では一人がすでに死に、残る四人は自分の腹や筋肉を引き裂いていた。手つかずの食料が残る一方で、死者の肉は食べられている。救出しようとすると彼らは激しく抵抗し、鎮静剤もほとんど効かなかった。手術室へ運ばれた後も眠ることを拒み、再びガスを吸わせろと要求する。眠りに落ちた者は、そのまま息を引き取った。

覚醒ガスの管が通る室内で、眠れない被験者たちが疲れた顔で互いを見張る場面
覚醒ガスの管が通る室内で、眠れない被験者たちが疲れた顔で互いを見張る場面

語りの移り変わり

  1. 1940年代末(作中)ソ連の施設で五人の囚人を使った断眠実験が始まる。
  2. 15日目(作中)密室が開かれ、生存者たちは眠ることを激しく拒む。
  3. 2010年8月10日OrangeSoda名義の文章がCreepypasta Wikiに投稿される。
  4. その後造形作品の写真とともに転載され、実話説も広まる。

最後に残った被験者

軍の責任者は、残った被験者を研究者三人とともに密室へ戻すよう命じる。これ以上は続けられないと判断した兵士が責任者を射殺し、被験者にも銃を向けた。お前は何者なのか。そう問われた男は、自分たちは人間の内側に隠れ、毎晩の眠りによって抑え込まれているものだと答える。兵士が引き金を引くと、男は自由になりかけた、と言い残して死んだ。

作品は研究記録のように日数を追い、室内の音声、軍人の命令、手術の経過を細かく書き込んでいる。国名と年代は示されるのに、研究所名、担当者名、公文書番号はない。確認できるのは、OrangeSodaと名乗る投稿者が二〇一〇年八月十日にCreepypasta Wikiへ掲載した文章までである。

九日目の夜、一人がマイクへ叫び、他の四人が部屋の隅で無言になる場面
九日目の夜、一人がマイクへ叫び、他の四人が部屋の隅で無言になる場面

怪談とは別に広まった写真

ロシア睡眠実験を紹介する投稿には、痩せた人型の怪物が口を開けている写真がよく添えられる。これは被験者を写した資料写真ではない。米国のハロウィーン装飾品メーカーSpazmが製作した等身大フィギュアを撮影したもので、怪談の証拠として後から結び付けられた。

長時間の断眠が判断力や感情、身体機能を損なうこと自体は医学的に知られている。しかし、刺激性ガスを使ったこの実験や、本文にある身体変化を裏付ける資料はない。実在する睡眠研究の知識、秘密主義のソ連という舞台、出所を離れた怪物写真が一つに重なり、ネット上では創作の掲載後もしばしば実話として転載された。

破いた本の紙で内側から観察窓が塞がれ、研究者が何も見えないガラスを見つめる場面
破いた本の紙で内側から観察窓が塞がれ、研究者が何も見えないガラスを見つめる場面
十五日目、兵士が重い扉を開け、暗い室内で生存者たちがガスを戻せと迫る非グラフィックな場面
十五日目、兵士が重い扉を開け、暗い室内で生存者たちがガスを戻せと迫る非グラフィックな場面
手術灯の下で鎮静を拒む被験者が目を見開き、研究者たちが後ずさる場面
手術灯の下で鎮静を拒む被験者が目を見開き、研究者たちが後ずさる場面
SOURCES

主な参考資料