十五日目の密室
部屋には食料、水、簡易ベッド、トイレがあり、外から様子をうかがえる丸窓が付いていた。囚人たちは初めの数日こそ会話を続けたが、五日目を過ぎると互いに話すのをやめる。九日目、一人が何時間も叫び続け、ついには声が出なくなった。ほかの者は本のページを破り、窓を自分たちの排泄物で塗りつぶした。マイクにも声が入らない。研究者が呼びかけると、室内からは、ここから出されたくないという返事が戻った。
十五日目、研究者はガスを止め、兵士に扉を開けさせた。中では一人がすでに死に、残る四人は自分の腹や筋肉を引き裂いていた。手つかずの食料が残る一方で、死者の肉は食べられている。救出しようとすると彼らは激しく抵抗し、鎮静剤もほとんど効かなかった。手術室へ運ばれた後も眠ることを拒み、再びガスを吸わせろと要求する。眠りに落ちた者は、そのまま息を引き取った。

語りの移り変わり
- 1940年代末(作中)ソ連の施設で五人の囚人を使った断眠実験が始まる。
- 15日目(作中)密室が開かれ、生存者たちは眠ることを激しく拒む。
- 2010年8月10日OrangeSoda名義の文章がCreepypasta Wikiに投稿される。
- その後造形作品の写真とともに転載され、実話説も広まる。
最後に残った被験者
軍の責任者は、残った被験者を研究者三人とともに密室へ戻すよう命じる。これ以上は続けられないと判断した兵士が責任者を射殺し、被験者にも銃を向けた。お前は何者なのか。そう問われた男は、自分たちは人間の内側に隠れ、毎晩の眠りによって抑え込まれているものだと答える。兵士が引き金を引くと、男は自由になりかけた、と言い残して死んだ。
作品は研究記録のように日数を追い、室内の音声、軍人の命令、手術の経過を細かく書き込んでいる。国名と年代は示されるのに、研究所名、担当者名、公文書番号はない。確認できるのは、OrangeSodaと名乗る投稿者が二〇一〇年八月十日にCreepypasta Wikiへ掲載した文章までである。

怪談とは別に広まった写真
ロシア睡眠実験を紹介する投稿には、痩せた人型の怪物が口を開けている写真がよく添えられる。これは被験者を写した資料写真ではない。米国のハロウィーン装飾品メーカーSpazmが製作した等身大フィギュアを撮影したもので、怪談の証拠として後から結び付けられた。
長時間の断眠が判断力や感情、身体機能を損なうこと自体は医学的に知られている。しかし、刺激性ガスを使ったこの実験や、本文にある身体変化を裏付ける資料はない。実在する睡眠研究の知識、秘密主義のソ連という舞台、出所を離れた怪物写真が一つに重なり、ネット上では創作の掲載後もしばしば実話として転載された。






