メアリーが見た画像
語り手は、インターネット上の怪談を調べるうちにメアリー・Eという女性を訪ねた。彼女は一九九二年、掲示板に投稿された画像を見て以来、外出を避けていた。取材の日、メアリーは二階の寝室に閉じこもり、夫だけが応対した。一週間後、彼女から長いメールが届く。そこには、自分を苦しめてきた画像と悪夢のことが書かれていた。
夢の中でメアリーは、窓のない暗い部屋に立っている。向かいには人間の歯で笑う犬が座り、そばに血まみれの手が浮かんでいた。犬は言葉を使わず、画像を広めろと伝えてくる。拒み続けると夢は毎晩繰り返され、犬は少しずつ近づいた。メールを送った後、メアリーは命を絶つ。語り手は添付ファイルを開かずにフロッピーディスクへ移したものの、やがて自分も画像を見たと打ち明ける。

語りの移り変わり
- 1992年(作中)メアリーが掲示板の画像を見て悪夢に悩まされる。
- 2000年代後半smile.jpgと怪談が画像掲示板や怪談サイトで広まる。
- 2010年代別版の画像、朗読動画、ゲーム作品が次々に作られる。
- 現在出所不明の『呪われた画像』を代表するネット怪談として残る。
受信者を送り手に変える
スマイル・ドッグは、見ただけで死ぬ画像ではない。犬が求めるのは『spread the word』、つまり画像を次の人へ渡すことだ。従えば助かるかもしれないが、代わりに見知らぬ誰かが同じ悪夢を引き受ける。本文の最後で語り手は、ファイルを添付して記事を公開すべきか迷っている。読者は、いま読んだページに本物の画像が潜んでいるかもしれないという位置へ置かれる。
チェーンメールには、指定人数へ転送しなければ不幸になるという文面が古くからあった。スマイル・ドッグは、その命令を一枚の不気味な画像と夢の中の追跡者に置き換えた。転載されるたびに色調や犬種、背景の手が異なる画像が作られ、どれが最初のsmile.jpgなのかも分からなくなった。

掲示板から広がった笑う犬
現在知られる怪談は、二〇〇八年ごろに4chanの超常現象板などで流通したとされる。怪談の中では一九九〇年代の掲示板やUsenetが語られるが、それらは犬の古さを演出する設定であり、同時代の投稿記録は確認されていない。赤く加工されたハスキー犬の画像と、怪談本文の作者も特定されていない。
後には、赤い犬とは異なる白黒の画像や、笑い声を加えた動画、ゲーム作品が登場した。画像検索で偶然出会う可能性があるため、URLを知らなくても話に参加できる。題名を聞いた人が自分で検索し、画面に現れた犬を見てしまうところまでが、ネット上での広まり方になった。






