赤い点が脈を打つ
女性は最初、腫れを化粧で隠す。母親や友人は、旅行先の蚊か蜘蛛に咬まれたのだろうと言う。数日たつと赤い点は硬く盛り上がり、熱を持つ。鏡へ近づくと、薄い皮膚の下に小さな粒が並んで見える。
浴室で破裂する版のほか、医師がメスを入れた瞬間、診察室へ蜘蛛が散る版もある。額、頬、腕、乳房など腫れる場所は変わる。本人が引っかいて傷を広げたため、孵化した蜘蛛が顔中を這うという結末も作られた。

語りの移り変わり
- 1970年代末旅先の蜘蛛が皮膚へ産卵する話が、英国と欧州で現代伝説として広がる。
- 1981年『More Scary Stories to Tell in the Dark』に『The Red Spot』が収録される。
- 1980~90年代旅行先と腫れる部位を替えた異版が欧米各地で採録される。
- 2019年映画『Scary Stories to Tell in the Dark』が頬から蜘蛛が出る場面を映像化する。
旅先から持ち帰るもの
この話は1970年代末に英国や欧州で目立ち始めた。主人公はアフリカ、中南米、スペインなど暖かい土地から帰る。現地で見慣れない虫に触れたという一場面が、帰宅後の腫れへ説明をつける。
語り手の国が変わると、旅行先もさらに遠い場所へ移る。同じ国内の海岸で咬まれた版もあるが、多くは外国を選ぶ。本人も地元の医師も知らない蜘蛛だから、普通ではない産卵をしても不思議ではない、と話を進められる。

蜘蛛は皮膚へ卵を産むか
蜘蛛は糸で作った卵嚢へ卵をまとめ、巣や物陰へ置く。種類によっては母蜘蛛が卵嚢を運ぶ。蚊のように口器で人の血を吸い、その傷から卵を入れる仕組みはない。人の皮膚へ産卵管を差し込む寄生バエやハチの生態が、蜘蛛の姿へ移された可能性がある。
実際の咬傷は赤く腫れ、細菌感染による膿瘍ができることがある。膿や壊死した組織が出る様子を『卵が孵った』と説明した話も考えられる。ただし、伝説のように一つの腫れから何十匹もの蜘蛛が出た症例は確認されていない。

本と映画の赤い腫れ
アルヴィン・シュワルツは1981年の『More Scary Stories to Tell in the Dark』へ『The Red Spot』を収録した。少女の頬の腫れが風呂で破れ、子蜘蛛が出る短い話で、北米の子どもたちにも広く知られた。
2019年の映画版『Scary Stories to Tell in the Dark』は、赤い腫れを頬から顔全体へ広げ、蜘蛛が皮膚の穴からあふれる場面にした。古い語りでは数行だった破裂の瞬間が映像になり、旅行の前置きがなくても、一つの赤い点だけで話が通じるようになった。





