現代怪異資料館MODERN KAIKI ARCHIVE
奇怪千万現代怪異資料館髪型の中の蜘蛛
FILE 78 / 流行・身体怪談

髪型の中の蜘蛛

かみがたのなかのくも

崩さない髪の奥で巣が育ち、眠る女を噛んだ

少女は髪を逆立て、砂糖水か大量のヘアスプレーで固め、大きな蜂の巣形に整える。毎朝作り直すのは大変なので、夜は髪を布で包み、形を崩さず眠る。何週間も洗わないうちに頭がかゆくなり、強い痛みで倒れる。美容師か医師が髪をほどくと、中には蜘蛛の巣があり、無数の子蜘蛛が頭皮を這っていた。毒蜘蛛に咬まれ、少女はすでに死んでいたという版もある。

1960年代の美容院で、若い女性の髪を高いビーハイブ型に固める場面
1960年代の美容院で、若い女性の髪を高いビーハイブ型に固める場面

ほどけないビーハイブ

ビーハイブは髪を逆毛にし、頭頂部へ高く積み上げる。1960年代初めに流行すると、形を保つため大量のラッカーを使う女性もいた。伝説の少女は髪へ砂糖水を塗るため、虫を引き寄せるという説明がつく。

頭がかゆくても、少女は鉛筆で髪の上から掻くだけで洗わない。母親や同級生が臭いに気づき、ついに美容室へ連れていく。ピンを外し、固まった髪を切ると、蜘蛛、ゴキブリ、蜂、鼠まで飛び出す。生きている版では髪を失い、死ぬ版では毒が脳へ回っていたとされる。

女性が形を崩さないよう髪へ網をかぶせ、枕を避けて眠る場面
女性が形を崩さないよう髪へ網をかぶせ、枕を避けて眠る場面

語りの移り変わり

  1. 13世紀ごろ髪を飾る女性が蜘蛛に罰せられる話が、説教例話集に記される。
  2. 1950~60年代高く固める流行の髪型と結びつき、蜘蛛が巣を作る現代伝説が広がる。
  3. 1970~90年代長髪、ドレッド、編み込みなど新しい髪型へ虫の種類と結末を替えて再話される。
  4. 現在怪談集や動画で、髪をほどく場面を中心に語られる。

流行の髪型へついて回る話

1950年代にはポニーテール、1960年代にはビーハイブ、後にはドレッドヘアや編み込みへ話が移った。髪型の構造が違っても、『長く洗わず、内部が見えない』という前提が加えられる。新しい流行を理解しない世代が、衛生への不安を語るのに使った。

男性の長髪が広がると、ロック歌手の髪に虫が住む版も現れた。人種や階級と結びつけ、特定の髪型を不潔と決めつける語りもある。実際の手入れ方法を知らずに、外から見えない髪の内側へ恐ろしいものを置いた。

教室で髪の奥から小さな蜘蛛が肩へ落ちるが、本人が気づかない場面
教室で髪の奥から小さな蜘蛛が肩へ落ちるが、本人が気づかない場面

中世の説教にもいた蜘蛛

十三世紀ごろの説教例話集『Speculum Laicorum』には、髪を飾ることに時間をかけ、礼拝へ遅れる女性が登場する。悪魔が蜘蛛の姿で髪に住みつき、聖職者が聖体を示すと消える。外見への虚栄を戒めるための短い話だった。

現代版に悪魔や聖体は出ない。代わりに美容師、医師、毒蜘蛛が結末を担う。宗教上の罰から衛生上の事故へ変わっても、髪を飾りすぎた女性が頭の中から罰を受ける筋は続いた。

洗面所で女性が激しい頭痛に耐えながら固い髪へ手を当てる場面
洗面所で女性が激しい頭痛に耐えながら固い髪へ手を当てる場面

蜘蛛が選ぶ場所

蜘蛛は静かで餌となる虫がいる隙間へ巣を作る。人が毎日動かし、体温があり、振動の多い頭髪は、長く子育てをする場所に向かない。髪へ一匹が一時的に紛れ込むことと、巣を作って卵を孵すことは違う。

話の中では、髪型が大きいほど内部を確かめにくくなる。聞き手は少女の頭痛が強くなるたび、髪の中で何匹に増えたかを想像する。最後に髪をほどくまで、外から見えるのは流行通りに整った形だけである。

医師が高い髪を慎重に切り開き、内部の蜘蛛の巣と卵嚢を見つける場面
医師が高い髪を慎重に切り開き、内部の蜘蛛の巣と卵嚢を見つける場面
ほどけた髪から多数の小蜘蛛が白い診察布へ散る非グラフィックな場面
ほどけた髪から多数の小蜘蛛が白い診察布へ散る非グラフィックな場面
SOURCES

主な参考資料