ロンドン市長へ届いた匿名の手紙
1838年1月9日、ロンドン市長サー・ジョン・コーワンはマンション・ハウスの公開審理で、一通の手紙を読み上げた。手紙には、若い貴族を含む一団が賭けをし、幽霊や熊に扮して女性を驚かせているとあった。すでに郊外では、外套を着た男が女性の前へ飛び出し、高い壁を越えて逃げたという噂が流れていた。
市長は話の細部を疑いながらも、負傷者が出ているとして情報提供を求めた。新聞が審理を報じると、各地から似た目撃談が届く。姿は白い牛、熊、悪魔、鎧を着た男と一定しなかったが、並外れた跳躍と突然の襲撃が『Spring-Heeled Jack』という名へまとめられていった。

語りの移り変わり
- 1837年末ロンドン郊外で、女性を驚かせて高い壁を越える男の噂が広がる。
- 1838年1月9日ロンドン市長が匿名の告発状を公開し、新聞が怪人騒ぎを報じる。
- 1838年2月ジェーン・オルソップとルーシー・スケールズが、炎を吐く男に襲われたと証言する。
- 19世紀後半芝居、ペニー・ドレッドフル、地方新聞で姿を変え、各地の目撃談へ名前が使われる。
ジェーン・オルソップ襲撃
オルソップは妹に助けられ、家の中へ逃げ込んだ。彼女の証言では、襲撃者はぴったりした白い服の上に黒い外套をまとい、手は金属の爪のように冷たかった。警察は現場を調べ、男が落としたらしい外套を追ったが、犯人は捕まらなかった。襲撃を自慢した男が取り調べを受けたものの、火を吐く仕掛けを説明できず釈放されている。
九日後の2月28日には、十八歳のルーシー・スケールズが姉と帰宅中、グリーン・ドラゴン小路で外套姿の男に出会った。男は彼女の顔へ青い炎を吹き、ルーシーは地面に倒れてけいれんした。姉が叫ぶと男は逃げた。二件は新聞に実名と場所を伴って載り、ばね足ジャックの代表的な事件になった。

新聞の怪人が舞台へ上がる
1838年の春には、ばね足ジャックを題材にした芝居や小冊子が売られた。舞台では大きな跳躍を見せる必要があり、怪人は鎧、角、翼、鉤爪を備えるようになる。新聞記事と芝居の宣伝を読んだ人々は、次の目撃談をその姿に重ねた。
1860年代から刊行された安価な連載読み物では、ジャックが悪人を懲らしめる覆面の主人公になる版も現れた。1838年の襲撃者とは別人のような人物だが、ばねのついた靴で屋根を飛び越える場面が人気を集めた。恐ろしい通り魔と冒険物語の英雄が、同じ名前で並んだ。

各地へ飛んだジャック
ロンドンの騒ぎが収まった後も、1877年のオールダーショット兵営、1904年のリヴァプールなどで、屋根や塀を飛び越える男が現れたと報じられた。年代が離れ、外見も違うため、すべてを同じ人物の行動としてつなぐことは難しい。いたずら、暴行事件、見世物の印象が、その時々の『ジャック』に集められた。
後世の挿絵では、赤い目、尖った耳、黒い外套、炎を吐く口が定番になった。初期の証言を読むと、それらが一度に揃うわけではない。ジェーンの家の門で警官を装った男と、屋根の上を跳ぶ悪魔のような姿の間には、新聞、芝居、連載小説が重ねた六十年以上の時間がある。





