現代怪異資料館MODERN KAIKI ARCHIVE
奇怪千万現代怪異資料館ばね足ジャック
FILE 52 / 英国・跳躍怪人

ばね足ジャック

ばねあしじゃっく

塀と屋根をひと跳びに越えたヴィクトリア朝の怪人

1838年2月19日の夜、ロンドン東部オールド・フォードで、十八歳のジェーン・オルソップは激しく鳴る呼び鈴に応じた。門の外にいた男は警官を名乗り、『ばね足ジャックを捕まえた。明かりを持ってきてくれ』と叫ぶ。燭台を渡すと、男は外套を脱ぎ、赤く光る目と爪のような手を見せた。青白い炎を吐き、彼女の服と髪をつかんだという。

1838年のロンドン郊外、警官を名乗る外套の男が夜の家の門をたたく場面
1838年のロンドン郊外、警官を名乗る外套の男が夜の家の門をたたく場面

ロンドン市長へ届いた匿名の手紙

1838年1月9日、ロンドン市長サー・ジョン・コーワンはマンション・ハウスの公開審理で、一通の手紙を読み上げた。手紙には、若い貴族を含む一団が賭けをし、幽霊や熊に扮して女性を驚かせているとあった。すでに郊外では、外套を着た男が女性の前へ飛び出し、高い壁を越えて逃げたという噂が流れていた。

市長は話の細部を疑いながらも、負傷者が出ているとして情報提供を求めた。新聞が審理を報じると、各地から似た目撃談が届く。姿は白い牛、熊、悪魔、鎧を着た男と一定しなかったが、並外れた跳躍と突然の襲撃が『Spring-Heeled Jack』という名へまとめられていった。

外套を開いたばね足ジャックが赤い目を光らせ、青白い炎を吐く場面
外套を開いたばね足ジャックが赤い目を光らせ、青白い炎を吐く場面

語りの移り変わり

  1. 1837年末ロンドン郊外で、女性を驚かせて高い壁を越える男の噂が広がる。
  2. 1838年1月9日ロンドン市長が匿名の告発状を公開し、新聞が怪人騒ぎを報じる。
  3. 1838年2月ジェーン・オルソップとルーシー・スケールズが、炎を吐く男に襲われたと証言する。
  4. 19世紀後半芝居、ペニー・ドレッドフル、地方新聞で姿を変え、各地の目撃談へ名前が使われる。

ジェーン・オルソップ襲撃

オルソップは妹に助けられ、家の中へ逃げ込んだ。彼女の証言では、襲撃者はぴったりした白い服の上に黒い外套をまとい、手は金属の爪のように冷たかった。警察は現場を調べ、男が落としたらしい外套を追ったが、犯人は捕まらなかった。襲撃を自慢した男が取り調べを受けたものの、火を吐く仕掛けを説明できず釈放されている。

九日後の2月28日には、十八歳のルーシー・スケールズが姉と帰宅中、グリーン・ドラゴン小路で外套姿の男に出会った。男は彼女の顔へ青い炎を吹き、ルーシーは地面に倒れてけいれんした。姉が叫ぶと男は逃げた。二件は新聞に実名と場所を伴って載り、ばね足ジャックの代表的な事件になった。

家族がジェーンを玄関へ引き戻す間に、爪のある怪人が塀へ跳び上がる場面
家族がジェーンを玄関へ引き戻す間に、爪のある怪人が塀へ跳び上がる場面

新聞の怪人が舞台へ上がる

1838年の春には、ばね足ジャックを題材にした芝居や小冊子が売られた。舞台では大きな跳躍を見せる必要があり、怪人は鎧、角、翼、鉤爪を備えるようになる。新聞記事と芝居の宣伝を読んだ人々は、次の目撃談をその姿に重ねた。

1860年代から刊行された安価な連載読み物では、ジャックが悪人を懲らしめる覆面の主人公になる版も現れた。1838年の襲撃者とは別人のような人物だが、ばねのついた靴で屋根を飛び越える場面が人気を集めた。恐ろしい通り魔と冒険物語の英雄が、同じ名前で並んだ。

暗い路地でルーシーの前へ長身の怪人が現れ、口元に青い火が灯る場面
暗い路地でルーシーの前へ長身の怪人が現れ、口元に青い火が灯る場面

各地へ飛んだジャック

ロンドンの騒ぎが収まった後も、1877年のオールダーショット兵営、1904年のリヴァプールなどで、屋根や塀を飛び越える男が現れたと報じられた。年代が離れ、外見も違うため、すべてを同じ人物の行動としてつなぐことは難しい。いたずら、暴行事件、見世物の印象が、その時々の『ジャック』に集められた。

後世の挿絵では、赤い目、尖った耳、黒い外套、炎を吐く口が定番になった。初期の証言を読むと、それらが一度に揃うわけではない。ジェーンの家の門で警官を装った男と、屋根の上を跳ぶ悪魔のような姿の間には、新聞、芝居、連載小説が重ねた六十年以上の時間がある。

馬車の前へ飛び出した怪人が御者の頭上を越えて屋根へ着地する場面
馬車の前へ飛び出した怪人が御者の頭上を越えて屋根へ着地する場面
霧の濃いロンドンの屋根を、外套姿のジャックが大きく跳び移る場面
霧の濃いロンドンの屋根を、外套姿のジャックが大きく跳び移る場面
SOURCES

主な参考資料