古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑雨降小僧
FILE 85 / 雨・童子

雨降小僧

あめふりこぞう

傘を頭へ載せ、雨の中に立つ小さな従者

雨脚の向こうから、大きな笠が一つ歩いてくる。近づくと、笠の下には提灯を持った裸足の子どもがいる。顔はどこか獣じみて、口元から長い舌がのぞく。鳥山石燕はこの雨降小僧を、雨をつかさどる神の侍童ではないかと描いた。傘を貸すと取り返すまで雨が続くという話は、後の時代に膨らんだ。

江戸の雨道で、大きな傘を頭へ載せた一つ目の小僧が灯りを持って歩く場面
江戸の雨道で、大きな傘を頭へ載せた一つ目の小僧が灯りを持って歩く場面

笠の下を歩く小さな影

石燕の雨降小僧は、体が隠れるほど大きな笠を頭に載せ、片手に紙の提灯を提げる。雨で着物の裾は濡れ、足元には水がたまる。子どもの姿ながら、顔は人間と同じではない。

笠は傘と違って両手を空けられるため、旅や農作業で使われた。雨の夜に遠くから見れば、笠だけが地面近くを動いているように見える。提灯の明かりが近づいて初めて、その下の顔が分かる。

軒下の町人が、雨越しに小僧の傘と一つ目を見つける場面
軒下の町人が、雨越しに小僧の傘と一つ目を見つける場面

語りの移り変わり

  1. 近世雨の神や雨を呼ぶ存在の知識が、民間信仰と漢籍の双方で知られる。
  2. 1779年鳥山石燕『今昔画図続百鬼』に雨降小僧が収録される。
  3. 近代石燕画集の復刻で、大笠と提灯を持つ姿が妖怪事典へ入る。
  4. 現代傘を奪う、雨を自在に降らすなどの物語が漫画や図鑑で加わる。

雨の神に仕える童子

安永八年(一七七九)の『今昔画図続百鬼』で、石燕は雨の神を「雨師」と呼び、雨降小僧はその召使いの童子だろうかと記した。古い神話の一場面を写したのではなく、雨の日の小僧へ役目を想像している。

雨を降らせる力が本人にあるのか、主人の命令で歩いているのかも定められていない。原図では、雨はすでに降っている。小僧は天候を変えるより、雨の中で何かを運ぶ途中に見える。

水たまりへ裸足を入れ、小僧が提灯を低く掲げる場面
水たまりへ裸足を入れ、小僧が提灯を低く掲げる場面

傘をめぐる後の話

現代の妖怪図鑑では、雨降小僧へ傘を貸すと返してもらえない、傘を奪われると高熱が出る、通った所に雨を降らせるなどの説明が見られる。

これらは石燕の詞書には書かれていない。大きな笠と雨という一枚絵から、傘の貸し借りや雨乞いの物語が加えられた。古い資料に戻ると、雨師の供をする、提灯持ちの小僧という控えめな姿が残る。

大きな骨傘を頭へ載せた一つ目の雨降小僧が、雨の町家の屋根を歩く
大きな骨傘を頭へ載せた一つ目の雨降小僧が、雨の町家の屋根を歩く
軒下の町人のすぐ前を、一つ目の雨降小僧が提灯を下げて通り過ぎる
軒下の町人のすぐ前を、一つ目の雨降小僧が提灯を下げて通り過ぎる
雨降小僧が激しい雨の幕へ消え、水たまりの波紋と提灯の残光だけが残る
雨降小僧が激しい雨の幕へ消え、水たまりの波紋と提灯の残光だけが残る
SOURCES

主な参考資料