天井で小豆が増えていく
平秩東作の奇談随筆『怪談老の杖』には、麻布の屋敷で毎晩起きる怪異が載る。話を聞いた友人が泊まりに来ると、まず天井を踏む音がした。続いて小豆をぱらぱらとまく音が始まり、少しずつ量が増える。
やがて一斗ほどを一度にぶちまけたような音になり、また少ない音へ戻る。庭の飛石を下駄で走る音や、手水鉢の水をまく音まで加わった。友人が外を確かめても、音を立てた者も小豆も見つからなかった。

語りの移り変わり
- 江戸時代麻布の武家屋敷で、小豆をまくような音が夜ごと響く怪異が語られる。
- 近世後期平秩東作『怪談老の杖』に、宿泊した友人が音を確かめる話が収録される。
- 近代怪談集や妖怪事典で、小豆はかりの名がこの屋敷怪異に付けられる。
- 20世紀後半水木しげるが毛むくじゃらの姿を描き、漫画にも登場させる。
物を残さない家鳴り
小豆はかりは、人にけがをさせず、家財も壊さない。夜の静かな屋敷で、そこにない小豆や下駄や水の音だけを聞かせる。翌朝になれば、床に一粒の豆も落ちていない。
川辺で小豆を洗う音を立てる小豆洗いと名は似るが、場所も音の変化も違う。小豆はかりは家の天井や庭に現れ、豆を量るというより、少量から大量へ音を増減させる。

音から毛むくじゃらの妖怪へ
原話では、宿泊した友人も姿を見ていない。小豆はかりが老人なのか獣なのか、天井裏に体があるのかさえ分からなかった。
水木しげるはこの怪異を、大きな目と口を持つ毛むくじゃらの妖怪として描いた。漫画では小豆洗い、小豆婆と組むこともあり、三者は「小豆の妖怪」として親しまれた。姿のない屋敷の音が、絵と物語の登場人物へ変わった。






