古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑小豆量り
FILE 88 / 屋敷・音

小豆量り

あずきはかり

天井から小豆を散らす音だけが降る

江戸麻布の武家屋敷では、夜になると天井裏を誰かがどしどし歩いた。その足音が止むと、今度は小豆を一粒ずつ落とすような音がする。音は次第に激しくなり、最後には一斗もの小豆を一度にまいたような騒ぎになった。客が障子を開けても、庭にも天井にも誰もいない。この怪異が、後に小豆はかりと呼ばれた。

江戸の武家屋敷で、家人が天井板を踏む音へ顔を上げる場面
江戸の武家屋敷で、家人が天井板を踏む音へ顔を上げる場面

天井で小豆が増えていく

平秩東作の奇談随筆『怪談老の杖』には、麻布の屋敷で毎晩起きる怪異が載る。話を聞いた友人が泊まりに来ると、まず天井を踏む音がした。続いて小豆をぱらぱらとまく音が始まり、少しずつ量が増える。

やがて一斗ほどを一度にぶちまけたような音になり、また少ない音へ戻る。庭の飛石を下駄で走る音や、手水鉢の水をまく音まで加わった。友人が外を確かめても、音を立てた者も小豆も見つからなかった。

行灯の下で、小豆を散らすような音を聞きながら天井を見守る場面
行灯の下で、小豆を散らすような音を聞きながら天井を見守る場面

語りの移り変わり

  1. 江戸時代麻布の武家屋敷で、小豆をまくような音が夜ごと響く怪異が語られる。
  2. 近世後期平秩東作『怪談老の杖』に、宿泊した友人が音を確かめる話が収録される。
  3. 近代怪談集や妖怪事典で、小豆はかりの名がこの屋敷怪異に付けられる。
  4. 20世紀後半水木しげるが毛むくじゃらの姿を描き、漫画にも登場させる。

物を残さない家鳴り

小豆はかりは、人にけがをさせず、家財も壊さない。夜の静かな屋敷で、そこにない小豆や下駄や水の音だけを聞かせる。翌朝になれば、床に一粒の豆も落ちていない。

川辺で小豆を洗う音を立てる小豆洗いと名は似るが、場所も音の変化も違う。小豆はかりは家の天井や庭に現れ、豆を量るというより、少量から大量へ音を増減させる。

天井の音が庭の飛び石へ移り、障子の前まで近づく場面
天井の音が庭の飛び石へ移り、障子の前まで近づく場面

音から毛むくじゃらの妖怪へ

原話では、宿泊した友人も姿を見ていない。小豆はかりが老人なのか獣なのか、天井裏に体があるのかさえ分からなかった。

水木しげるはこの怪異を、大きな目と口を持つ毛むくじゃらの妖怪として描いた。漫画では小豆洗い、小豆婆と組むこともあり、三者は「小豆の妖怪」として親しまれた。姿のない屋敷の音が、絵と物語の登場人物へ変わった。

家人が障子を開け、誰もいない手水鉢と濡れた石を見る場面
家人が障子を開け、誰もいない手水鉢と濡れた石を見る場面
武家屋敷で小豆を撒く音が天井から庭へ移り、家人たちが空の廊下を追う
武家屋敷で小豆を撒く音が天井から庭へ移り、家人たちが空の廊下を追う
天井裏にも庭にも小豆が一粒もないのに、家人の頭上で再び小豆を量る音が始まる
天井裏にも庭にも小豆が一粒もないのに、家人の頭上で再び小豆を量る音が始まる
SOURCES

主な参考資料