古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑刑部姫
FILE 89 / 城・城主

刑部姫

おさかべひめ

姫路城の天守に住む、姿の定まらない主

姫路城の天守最上階には、城主でさえ普段は会えない女が住むといわれた。名は長壁姫、小刑部姫、刑部姫。年に一度だけ城主の前へ現れ、その年の城の運命を告げる。近世の怪談では巨大な女や老婆、狐の化身として描かれ、宮本武蔵が城の怪物を退けた話にも姿を見せる。もとは姫山の地主神をめぐる信仰と、築城後の怪異が重なった存在だった。

夜の姫路城天守で、白髪の刑部姫が御簾の奥に座る場面
夜の姫路城天守で、白髪の刑部姫が御簾の奥に座る場面

天守に住む城の主

長壁姫が住むのは、姫路城の最も高い場所だという。人前へはほとんど出ず、城主だけが年に一度会うことを許される。姿は美しい姫、気品のある老女、巨大な女など、話によって違う。

城を守る一方、無礼な者や近づく者を許さない。城主より古くから姫山にいた主であり、新しい権力者が天守を建てても、その奥だけは自分の場所として残したのである。

城主が年に一度、灯りを持って天守の最上階へ上がる場面
城主が年に一度、灯りを持って天守の最上階へ上がる場面

語りの移り変わり

  1. 1601~1609年池田輝政が姫路城を大改修し、地主神をめぐる祟りの噂が生まれる。
  2. 1677年『諸国百物語』に姫路城の化物を退ける武士の話が載る。
  3. 1779年鳥山石燕『今昔画図続百鬼』が長壁を城の主として描く。
  4. 江戸後期以降読本、芝居、絵画で長壁姫の姿と宮本武蔵の逸話が広がる。

移された地主神の祟り

池田輝政は慶長六年(一六〇一)から姫路城を大改修した。そのころ城内で怪異が続き、輝政の病も、姫山の地主神である長壁神の祟りだという噂が立った。社が城の外へ移されたことへの怒りとされた。

城内には長壁神を祀る場所が設けられ、信仰は続いた。長壁姫を特定の歴史上の女性とする説もあるが、一つに決まらない。土地の神、城を守る神、天守の妖怪が同じ名へ重なった。

古い天守の梁の上から、狐の影が武士たちを見下ろす場面
古い天守の梁の上から、狐の影が武士たちを見下ろす場面

宮本武蔵と天守の女

延宝五年(一六七七)の『諸国百物語』には、姫路城の怪物を退治する若い武士の話がある。後世、その武士は宮本武蔵とされ、夜ごと天守で灯をともして怪異を待つ。女が現れ、城に潜む狐を退けた礼として名刀を与える型も広まった。

鳥山石燕は『今昔画図続百鬼』に長壁を描き、城の主として紹介した。読本や歌舞伎ではさらに人物像が加わり、天守の奥から国の出来事まで知る、強い女妖怪になっていった。

若い宮本武蔵が行灯を掲げ、暗い階段を上る場面
若い宮本武蔵が行灯を掲げ、暗い階段を上る場面
刑部大神の小さな社で、城番が供物を替える場面
刑部大神の小さな社で、城番が供物を替える場面
姫路城天守の梁下で、狐の影を背負った刑部姫が城主の前へ姿を現す
姫路城天守の梁下で、狐の影を背負った刑部姫が城主の前へ姿を現す
SOURCES

主な参考資料