古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑滝夜叉姫
FILE 90 / 読本・術者

滝夜叉姫

たきやしゃひめ

相馬の古御所で父の再起を企てる姫

父・平将門を討たれ、一族を失った五月姫は、京都の貴船神社へ丑の刻参りを続けた。満願の夜、荒御霊から妖術を授かり、滝夜叉姫と名を改める。下総の相馬に残る父の館へ仲間を集め、朝廷へ反旗を翻した。そこへ大宅太郎光国が乗り込み、姫が呼び出した数百の骸骨と戦う。江戸後期の読本から生まれた人物で、史実の将門の娘を記録した話ではない。

荒れた相馬の古御所で、滝夜叉姫が破れた御簾の前に立つ場面
荒れた相馬の古御所で、滝夜叉姫が破れた御簾の前に立つ場面

五月姫が滝夜叉姫になる

天慶三年(九四〇)、平将門は討たれ、その首は都へ送られた。山東京伝の物語では、将門の娘・五月姫が生き延びる。父と一族の仇を討つため、貴船明神へ夜ごと参詣し、二十一日目に妖術を授かった。

五月姫は滝夜叉姫と名乗り、弟の良門とともに兵を集める。本拠にしたのは、父が相馬に建てた館の廃墟だった。華やかな御殿は崩れ、夜には妖怪が出入りするため、後に「相馬の古内裏」と呼ばれる。

滝夜叉姫が巻物を開き、武者たちの前で術を使う場面
滝夜叉姫が巻物を開き、武者たちの前で術を使う場面

語りの移り変わり

  1. 940年史実の平将門が討たれる。後世の物語はこの事件を滝夜叉姫の出発点にする。
  2. 1806年頃山東京伝『善知鳥安方忠義伝』に五月姫・滝夜叉姫と光国の戦いが描かれる。
  3. 1840年代歌川国芳が三枚続きの錦絵『相馬の古内裏』を制作する。
  4. 近代以降芝居、講談、漫画で、将門の遺志を継ぐ妖術使いとして描かれる。

光国が乗り込んだ古内裏

朝廷から派遣された大宅太郎光国は、滝夜叉姫の一味を探って古内裏へ入る。姫は美しい女の姿で近づき、味方へ誘うが、光国は断る。正体を見抜かれると、姫は妖術を使い、骸骨や化物を次々に呼び出した。

激しい戦いの末、光国は妖術を破る。滝夜叉姫は深手を負い、父のもとへ行けると語って息を引き取る。物語の結末や姫の扱いは、後の草双紙や芝居で書き換えられた。

朽ちた御所の奥から、多数の小さな骸骨が現れる読本の場面
朽ちた御所の奥から、多数の小さな骸骨が現れる読本の場面

国芳が一体にした巨大骸骨

歌川国芳は弘化年間の錦絵『相馬の古内裏』で、御簾を破って迫る巨大な骸骨を描いた。画面の左に滝夜叉姫、中央に光国、右には驚く荒井丸がいる。人間よりはるかに大きな頭蓋と手が、三枚続きの画面を埋める。

京伝の原作では、姫が出すのは多数の骸骨だった。国芳はそれらを一体へまとめ、古内裏そのものが起き上がったような場面を作った。この浮世絵が繰り返し紹介され、滝夜叉姫と巨大骸骨は切り離せない組み合わせになった。

国芳の構図のように、御簾の後ろから巨大な骸骨が身を乗り出す場面
国芳の構図のように、御簾の後ろから巨大な骸骨が身を乗り出す場面
滝夜叉姫の術で、相馬の古御所の床下から多数の小さな骸骨が武者へ迫る
滝夜叉姫の術で、相馬の古御所の床下から多数の小さな骸骨が武者へ迫る
巨大な骸骨が破れた御簾を突き破り、背後で滝夜叉姫が術を操る
巨大な骸骨が破れた御簾を突き破り、背後で滝夜叉姫が術を操る
SOURCES

主な参考資料