古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑紅葉鬼女
FILE 93 / 山・鬼女

紅葉鬼女

もみじきじょ

戸隠の宴で平維茂を眠らせる女

戸隠山へ紅葉狩りに来た平維茂は、山中で宴を開く美しい女たちに出会った。勧められるまま酒を飲み、舞を眺めるうちに眠ってしまう。女たちは消え、夢に神が現れて、あれは鬼だと告げる。目を覚ました維茂の前へ、炎を吐く鬼女が襲いかかった。能『紅葉狩』では名のない鬼だったが、土地の伝説と後世の物語の中で紅葉という女性の生涯が作られた。

戸隠山の紅葉の下で、高貴な女と侍女たちが幕を張って宴を開く場面
戸隠山の紅葉の下で、高貴な女と侍女たちが幕を張って宴を開く場面

紅葉見物の宴

能『紅葉狩』で、平維茂は鹿狩りの途中、戸隠山で身分の高そうな女の一行に出会う。女たちは紅葉の下へ幕を張り、酒宴を開いていた。維茂は誘いを断れず、酒を重ねる。女の舞を見ながら深く眠り込んだ。

八幡の神が夢へ現れ、女の正体は鬼だと知らせ、神剣を授ける。維茂が起きると宴の跡はなく、山から鬼女が現れる。鬼は火を吐いて襲うが、維茂は神剣で斬り伏せる。能の本文では、この鬼女を紅葉とは呼ばない。

平維茂が女から盃を受け、敷物の上で眠り込む場面
平維茂が女から盃を受け、敷物の上で眠り込む場面

語りの移り変わり

  1. 室町時代能『紅葉狩』が、美女に化けた戸隠山の鬼と平維茂の戦いを描く。
  2. 江戸時代浄瑠璃や絵画に紅葉狩が取り入れられ、鬼女の名や土地の話が重なる。
  3. 1887年河竹黙阿弥の歌舞伎舞踊『紅葉狩』が初演される。
  4. 明治中期『戸隠山鬼女紅葉退治之伝』が呉葉の出生から討伐までを詳しく物語る。

呉葉から紅葉へ

現在よく知られる伝説では、子のなかった笹丸と菊世が第六天魔王へ願い、呉葉という娘を得る。一家は都へ出て、呉葉は紅葉と名を変え、源経基の側室になった。正妻を呪った疑いで信濃へ流される。

鬼無里で暮らし始めた紅葉は、読み書きや医術を里人へ教えたともいう。やがて都へ戻る望みを捨てられず、荒倉山で山賊を従えて村々を襲う。朝廷は平維茂を遣わし、紅葉は討たれた。こうした詳しい生涯は明治期の『戸隠山鬼女紅葉退治之伝』などで形を整えた。

維茂の夢へ八幡神の使いが現れ、鞘に入った剣を渡す場面
維茂の夢へ八幡神の使いが現れ、鞘に入った剣を渡す場面

戸隠と鬼無里に残る二つの顔

長野市の戸隠、鬼無里には、紅葉の岩屋、屋敷跡、墓とされる場所が点在する。戸隠では維茂に退治された鬼女の話が前に出る。一方、鬼無里では都の文化を伝え、村人に慕われた女性の面も大切にされる。

歌舞伎『紅葉狩』では、前半の美しい姫と後半の荒々しい鬼を一人の役者が踊り分ける。土地の伝説も同じように、都から来た教養ある女と山の鬼を、一人の紅葉の中に残している。

宴の幕が消えた山中で、紅葉が角のある鬼女の姿を現す場面
宴の幕が消えた山中で、紅葉が角のある鬼女の姿を現す場面
神剣を抜いた維茂と鬼女が、紅葉の散る斜面で戦う場面
神剣を抜いた維茂と鬼女が、紅葉の散る斜面で戦う場面
鬼無里の家で、紅葉が村の女たちへ機織りを教える場面
鬼無里の家で、紅葉が村の女たちへ機織りを教える場面
SOURCES

主な参考資料