古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑お岩
FILE 95 / 歌舞伎・怨霊

お岩

おいわ

『東海道四谷怪談』で伊右衛門を追う妻

浪人の民谷伊右衛門は、妻のお岩と幼い子を抱え、貧しい暮らしにいら立っていた。裕福な伊藤家の娘・お梅に見初められると、病後のお岩を捨てて再婚しようとする。伊藤家から届いた薬を飲んだお岩の顔は腫れ上がり、髪は櫛を入れるたび抜けた。夫の裏切りを知ったお岩は、もみ合ううちに刀へ喉を突き、息絶える。伊右衛門は遺体を戸板へ打ちつけて川へ流したが、その夜からお岩の顔は新しい妻にも提灯にも現れた。

江戸の長屋で、産後のお岩が布団から伊右衛門を見る場面
江戸の長屋で、産後のお岩が布団から伊右衛門を見る場面

薬を飲んだ後の顔

塩冶家の浪人・伊右衛門は、お岩の父・四谷左門を殺していた。お岩には犯人を隠したまま夫婦に戻るが、仕官の口もなく生活は苦しい。産後のお岩は病み、伊右衛門の心は妻から離れていく。

隣家の伊藤喜兵衛は、孫娘のお梅を伊右衛門へ嫁がせようとする。伊藤家から血の道の薬として渡されたものをお岩が飲むと、顔の片側が腫れ、目が垂れ下がった。宅悦が髪をすくと、毛は血とともに抜け落ちる。薬が毒だったと知らされ、お岩は伊藤家へ向かおうとした。

お岩が薬を飲み、手鏡の中で腫れた顔を確かめる場面
お岩が薬を飲み、手鏡の中で腫れた顔を確かめる場面

語りの移り変わり

  1. 近世四谷のお岩稲荷や、夫婦をめぐる怪談・事件が江戸で語られる。
  2. 1825年四代目鶴屋南北『東海道四谷怪談』が中村座で初演される。
  3. 江戸末期~明治歌舞伎の再演、草双紙、錦絵によってお岩の顔と場面が定着する。
  4. 20世紀以降映画、テレビ、落語で繰り返し作られ、日本を代表する亡霊となる。

戸板に打ちつけられた二人

お岩は取り乱した拍子に、伊右衛門の刀へ喉を突いて死ぬ。伊右衛門は小仏小平を間男に仕立てて殺し、お岩と小平の遺体を一枚の戸板の表裏へ釘で打ちつけ、川へ流した。

そのままお梅との婚礼を迎えるが、綿帽子を取った花嫁の顔がお岩に見え、伊右衛門は斬り殺す。喜兵衛も小平に見えて斬る。川では戸板が浮かび、表返すたびにお岩と小平が現れる「戸板返し」が観客の前で演じられる。

お岩が櫛を通すたびに髪が畳へ抜け落ちる場面
お岩が櫛を通すたびに髪が畳へ抜け落ちる場面

舞台の仕掛けが作った亡霊

『東海道四谷怪談』は文政八年(一八二五)、江戸中村座で初演された。『仮名手本忠臣蔵』と交互に上演され、討ち入りから外れた浪人たちの暮らしと犯罪が、怪談の中へ入り込む。

提灯からお岩が抜け出す「提灯抜け」、一人の俳優が瞬時に役を替える早替り、戸板返しなどの仕掛けが見せ場になった。南北は四谷のお岩稲荷、皿屋敷、実際の事件などを組み合わせ、舞台で初めて成立する速さと残酷さを持つ物語にした。

伊右衛門の前で、戸板の表裏にお岩と小仏小平が現れる場面
伊右衛門の前で、戸板の表裏にお岩と小仏小平が現れる場面
暗い舞台で、破れた提灯からお岩が姿を現す場面
暗い舞台で、破れた提灯からお岩が姿を現す場面
腫れた顔と抜けた長髪のお岩の霊が、暗い長屋で伊右衛門を追う
腫れた顔と抜けた長髪のお岩の霊が、暗い長屋で伊右衛門を追う
SOURCES

主な参考資料