鈴鹿山で矢を交わす
東海道の鈴鹿峠は、伊勢国と近江国を結ぶ険しい道だった。盗賊や鬼が旅人を襲うという話も生まれ、山の主として立烏帽子、鈴鹿御前と呼ばれる女が現れる。
『田村の草子』では、坂上田村麻呂をもとにした田村丸が討伐へ向かう。女は並の矢では傷つかず、田村丸も女の矢を防ぐ。二人は互いを力のある相手と認め、鈴鹿御前は田村丸を館へ迎えた。

語りの移り変わり
- 平安時代史実の坂上田村麻呂の蝦夷征討が、後の田村語りの基礎になる。
- 室町時代『田村の草子』などが成立し、鈴鹿御前と田村丸、大嶽丸の物語が整う。
- 近世御伽草子、奥浄瑠璃、絵巻を通じて異なる鈴鹿御前像が各地へ広がる。
- 近代以降鈴鹿峠の伝説、田村麻呂伝承、鬼女物語の人物として研究・創作に取り上げられる。
大嶽丸から宝剣を奪う
鈴鹿御前を妻にしようと、大嶽丸という鬼神がたびたび館を訪れる。大嶽丸は三本の宝剣で身を守り、普通に戦っても倒せない。鈴鹿御前は田村丸を隠し、大嶽丸へ宝剣を見せてほしいと頼む。
鬼が油断して剣を渡すと、田村丸が姿を現す。守りを失った大嶽丸は討たれ、首を都へ運ばれた。鈴鹿御前は征伐される側から、より強い鬼を倒す協力者へ変わる。

天女、盗賊、土地の神
鈴鹿御前の正体は作品ごとに違う。天竺から来た天女、第六天魔王の娘、鈴鹿山の女盗賊、鬼女などがある。田村丸と夫婦になり娘を産む話もあれば、二十五歳で亡くなり、田村丸が冥界から連れ戻す話もある。
鈴鹿峠周辺では鈴鹿姫や鈴鹿大明神として祀られる伝承も残る。朝廷の武将に倒される山の賊と、その武将を助ける女神が同じ人物に重なったため、鈴鹿御前を一言で善悪どちらかへ分けることはできない。






