古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑川赤子
FILE 87 / 川・赤子

川赤子

かわあかご

川辺にうずくまる、赤子の名を持つ怪

夕暮れの川辺で、葦の奥から赤ん坊の泣き声がする。捨て子かもしれないと思い、濡れた草をかき分けて近づく。ところが、そこには誰もいない。今度は少し離れた岸から泣き声が上がる。追えばまた場所を変え、姿はいつまでも見つからない。鳥山石燕はこの声の主を、小さな河童のような川赤子として描いた。

江戸の川辺で、頭の大きな川赤子が浅瀬へ身を伏せている場面
江戸の川辺で、頭の大きな川赤子が浅瀬へ身を伏せている場面

葦の中から呼ぶ声

水辺で赤子が泣いていれば、そのまま通り過ぎるわけにはいかない。声を頼りに葦の中へ入ると、すぐ近くにいたはずの子どもが見つからない。立ち止まれば、今度は背後や対岸から泣く。

川赤子は助けようとする人を走り回らせるが、石燕の詞書では、それ以上の危害を加えない。声の場所を次々に移し、探す者をからかって笑うような怪異だった。

草の茂る岸から、川赤子が水面へ顔を近づける場面
草の茂る岸から、川赤子が水面へ顔を近づける場面

語りの移り変わり

  1. 伝承期川や沼で赤子の泣き声が移動し、人を惑わせる話が語られる。
  2. 1779年鳥山石燕『今昔画図続百鬼』に川赤子が描かれる。
  3. 近代石燕の絵を基に、河童の幼体や水辺の妖怪として紹介される。
  4. 現代人を水中へ誘う性質などが加わり、漫画やゲームにも登場する。

河童に似た小さな姿

安永八年(一七七九)の『今昔画図続百鬼』で、川赤子は水際に座る小さな生き物として描かれた。赤子の体つきだが、全身に毛があり、頭や顔は河童に近い。背後には太い葦が伸びる。

詞書は川太郎、つまり河童の仲間ではないかと記す。赤子が川へ捨てられて妖怪になったという生前の話はない。水辺の怪物が、人をおびき寄せやすい泣き声をまねている。

夜明け前の渡し場で、船頭が岸に残る小さな手跡を見る場面
夜明け前の渡し場で、船頭が岸に残る小さな手跡を見る場面

声だけの怪異に姿を与える

山や川で赤子の声がする怪異は、子泣き爺をはじめ各地にある。鳥や獣の鳴き声が人の声に似ることもあり、暗がりでは距離や方向を確かめにくい。

石燕は、声だけだった場面へ河童の子の姿を置いた。後の図鑑では、近づいた人を水へ引き込むと説明されることもあるが、原図では川赤子は岸に座り、声で人を惑わせるところまでしか描かれていない。

川赤子が浅瀬へ半身を沈め、大きな頭だけを水面近くへ出す
川赤子が浅瀬へ半身を沈め、大きな頭だけを水面近くへ出す
川赤子が岸の葦を小さな手でつかみ、遠い渡し舟の方へ顔を向ける
川赤子が岸の葦を小さな手でつかみ、遠い渡し舟の方へ顔を向ける
夜明けの渡し場で、小さな濡れた手跡が草むらから川へ続く
夜明けの渡し場で、小さな濡れた手跡が草むらから川へ続く
SOURCES

主な参考資料