古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑百々目鬼
FILE 40 / 盗み・身体

百々目鬼

どどめき

腕に百の目を宿す女

人混みへ長い腕を伸ばし、懐から銭を抜き取る女がいた。盗んだ銭には鳥の形が刻まれていたため、当時は「鳥目」とも呼ばれた。女が盗みを重ねるうち、鳥の目が一つずつ腕へ移り、ついには手首から肩まで無数の眼球で覆われたという。鳥山石燕が描いた百々目鬼は、顔を袖で隠しながら、目だらけの腕だけを夜道へさらしている。

袖からのぞく腕一面に銭形の目を持つ百々目鬼
袖からのぞく腕一面に銭形の目を持つ百々目鬼

盗んだ鳥目が腕へ移る

鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』は、腕の長い女が生まれ、その手癖が悪く、いつも人の銭を盗んだと記す。腕が長いことは、古くから盗みを働く者のたとえにも使われた。人より遠くまで届く手で、気づかれないうちに財布へ触れたのである。

江戸時代の銭には鳥のような文様があり、銭そのものを「鳥目」と呼んだ。女が鳥目を盗むたび、その精が腕へ付き、目の形になった。腕いっぱいの眼球は盗みの数でもあり、隠したはずの罪が皮膚の上へ見える形で現れたものでもある。

月夜の橋で女の袖から腕一面の銭形の目が開き、落ちた古銭を見つめる百々目鬼の場面
月夜の橋で女の袖から腕一面の銭形の目が開き、落ちた古銭を見つめる百々目鬼の場面

語りの移り変わり

  1. 平安時代中期宇都宮の民話では、藤原秀郷が百の目を持つ鬼を退治したとされる。
  2. 1779年鳥山石燕『今昔画図続百鬼』が、腕に目を持つ女を百々目鬼として描く。
  3. 近世以降鳥目、長い腕、盗人を掛けた妖怪として版本や図鑑へ受け継がれる。
  4. 現在宇都宮では百目鬼の民話が地域の歴史として紹介されている。

顔を隠し、腕だけが見る

石燕の絵では、女は片方の袖で顔を覆い、うつむいている。本人の目は見えないが、むき出しの腕に並ぶ目があらゆる方向を向く。人に見られたくない女と、隠せない百の視線が一つの体に同居している。

詞書は「函関外史」という書物を典拠のように挙げる。しかし、その名の文献はほかに確認されておらず、石燕が古い記録らしさを出すために置いた架空の書名とも考えられている。百々目鬼は、実在の伝承をそのまま描いたというより、盗人をめぐる言葉を組み立てた妖怪らしい。

町の市で女が人混みに紛れ、袖の下へ古銭を隠す場面
町の市で女が人混みに紛れ、袖の下へ古銭を隠す場面

宇都宮に残る百目鬼の名

栃木県宇都宮市には百目鬼通りや百目鬼という地名があり、藤原秀郷が百の目を持つ鬼を退治したとの民話が伝わる。後日、傷ついた鬼が本願寺の智徳上人の前に現れ、説法を聞いて改心したともいう。

地名の読みと、石燕が描いた百々目鬼はよく似ている。そのため同じ妖怪として語られることもあるが、石燕の詞書には宇都宮も藤原秀郷も出てこない。銭を盗む女の話と、土地に残る鬼退治は、由来の違う二つの伝承として分けておく必要がある。

月夜の橋で女の袖がめくれ、腕一面に銭形の目が開く場面
月夜の橋で女の袖がめくれ、腕一面に銭形の目が開く場面
百々目鬼の腕の目が一斉に落ちた古銭へ視線を向ける場面
百々目鬼の腕の目が一斉に落ちた古銭へ視線を向ける場面
橋のたもとで旅人が古銭を拾い、遠ざかる女の無数の目を見る場面
橋のたもとで旅人が古銭を拾い、遠ざかる女の無数の目を見る場面
SOURCES

主な参考資料