古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑塗仏
FILE 39 / 仏壇・家

塗仏

ぬりぼとけ

黒い身体と垂れた目の仏壇怪

夜の座敷で仏壇の戸が開き、中から黒い人影が這い出してくる。頭は禿げ、腹は大きく膨れ、二つの眼球が頬の下まで垂れている。塗仏は江戸時代の妖怪絵巻に繰り返し描かれたが、どこに現れ、何をしたのかを語る古い話は残っていない。仏壇から出てくる構図も鳥山石燕の絵に見られるもので、供養を怠った家に現れるという説明は後世に加わった。

開いた仏壇の前に黒い体と垂れた目で立つ塗仏
開いた仏壇の前に黒い体と垂れた目で立つ塗仏

目が垂れ下がる黒い僧

元文二年(一七三七)の『百怪図巻』に、塗仏はすでに描かれている。墨を塗ったような黒い肌、膨れた腹、頭の左右から下がる長い髪。最も目を引くのは、眼窩から飛び出し、糸で吊ったように垂れる二つの目である。背後には魚の尾に似たものも見える。

名前から仏像を思い浮かべるが、手は印を結ばず、僧衣も着けていない。仏の荘厳な姿を崩し、黒い肉の塊へ変えたように見える。絵巻には詞書がないため、この奇妙な体の意味は説明されないまま残った。

夜の座敷で閉じたはずの仏壇が開き、蝋燭の前に黒い塗仏の垂れた目が浮かぶ場面
夜の座敷で閉じたはずの仏壇が開き、蝋燭の前に黒い塗仏の垂れた目が浮かぶ場面

語りの移り変わり

  1. 1737年佐脇嵩之『百怪図巻』に黒い体と垂れた目の塗仏が描かれる。
  2. 江戸時代『化物づくし』など複数の妖怪絵巻に似た姿が受け継がれる。
  3. 1776年鳥山石燕『画図百鬼夜行』が、仏壇から現れる塗仏を描く。
  4. 近現代放置された仏壇に出る妖怪という説明が加わる。

仏壇の奥から現れる

鳥山石燕の『画図百鬼夜行』では、塗仏が仏壇の内側から半身を乗り出している。扉の奥には掛軸や仏具があり、本来まつられる仏の代わりに黒い怪物がこちらを見る。石燕も文章を添えておらず、仏壇から出た理由は分からない。

仏壇は先祖や亡くなった家族をまつり、毎日手を合わせる場所だった。戸を閉ざしたまま放置すれば、内側は暗く、埃がたまる。後世には、手入れも供養もされない仏壇へ塗仏が現れると説明された。これは石燕の構図から生まれた話で、古い目撃談が先にあったわけではない。

夜の座敷で家人が閉じたはずの仏壇から物音を聞く場面
夜の座敷で家人が閉じたはずの仏壇から物音を聞く場面

姿だけが受け継がれた妖怪

塗仏は『百怪図巻』のほか、『化物づくし』など複数の妖怪絵巻に登場する。黒い体と垂れた目は共通するが、背中の尾や髪の描き方には違いがある。絵師は先行する図を写しながら、細部を変えていった。

土地の伝説や怪談がなくても、姿が強烈なら妖怪は残る。塗仏の場合、仏壇という背景まで加わったことで、閉ざされた扉の奥にいるものとして記憶された。何をするかより、戸を開けた時に何が出てくるか。その一瞬だけで三百年近く描き継がれている。

仏壇の扉が開き、蝋燭の前へ黒い塗仏の身体が現れる場面
仏壇の扉が開き、蝋燭の前へ黒い塗仏の身体が現れる場面
塗仏の長く垂れた両目が揺れ、驚く家人へ顔を向ける場面
塗仏の長く垂れた両目が揺れ、驚く家人へ顔を向ける場面
朝の仏間で仏壇の扉だけが開き、蝋燭が消えている場面
朝の仏間で仏壇の扉だけが開き、蝋燭が消えている場面
SOURCES

主な参考資料