眠った女の首が伸びる
旅人が一夜の宿を借り、夜中に目を覚ます。隣の部屋で眠る女の首が、細い紐のように梁を越え、行灯の油をなめている。首が元へ戻ると女は何事もなかったように眠り、朝になっても昨夜のことを覚えていない。若い娘や女中が、心の緩む睡眠中にだけろくろ首になると語られた。
首と胴の間には、長く伸びた部分が見える場合もあれば、薄い白煙や糸のようなものだけが続く絵もある。昼の姿は普通の人間と変わらないため、家族でさえ正体を知らない。本人が夢の中で遠くへ出かけたと思い、後から首だけが見られていたと知る話もある。

語りの移り変わり
- 古代中国頭が胴体を離れて飛ぶ飛頭蛮や落頭民の記録が日本へ伝わる。
- 江戸時代『曾呂利物語』『甲子夜話』など、多くの怪談・随筆にろくろ首が登場する。
- 江戸末期以降見世物や浮世絵で、長く伸びる首の姿が人気を集める。
- 1904年小泉八雲が頭の抜ける型の「ろくろ首」を英語で発表する。
胴体を残して飛ぶ抜け首
近世の随筆や怪談には、頭が完全に抜ける「抜け首」が登場する。夜になると耳を翼のように動かして飛び、虫や小動物を食べる。体には首が離れた跡として赤い筋が残る。飛んでいる間に胴体を動かされると、頭は戻れなくなって死ぬともいわれた。
中国の書物に記された飛頭蛮や落頭民の話も、日本のろくろ首に重ねられた。小泉八雲の短編「ろくろ首」では、旅の僧が山家に泊まり、住人たちの頭が胴を離れて飛ぶところを目撃する。僧は残された胴体を移し、襲いかかる首を退けた。

見世物が伸ばした首
江戸から明治にかけて、ろくろ首は見世物小屋の人気演目になった。離れた場所にいる二人の女性を、長い襟巻や鏡の仕掛けで一人につながって見せる。客の前で首がするすると伸びれば、飛び去る頭よりも変化が分かりやすい。
浮世絵やおもちゃでも、長い首を曲げる女の姿が繰り返された。こうして「ろくろ首」と聞けば、頭が抜ける怪談より、首が何倍にも伸びる女を思い浮かべるようになった。古い文献を読むと、同じ名の下に二種類の怪異が残っている。






